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キウイ好きじゃない(#163)
生まれて初めてキウイフルーツ食べたのいつだっけな・・・。
今ははっきり・言える。私はキウイ・別に好きじゃない。
シドニーに来たばかりの頃、私は住み込みでベビーシッターをしていた。3人の男の子のいる家庭だった。長男は幼稚園、イチバン下はまだ乳飲み子で、真ん中はちょうど真ん中の年で、真ん中っぽい動きをしていた。
毎朝、長男の朝食よういして食べてもらって、幼稚園まで歩いて連れて行く。私はまだ20代半ばで、子供って何でこんなにうるさくて面倒くさい生き物なんだろう、イラッ。と感じていた。のちにその子たちとの間にも愛情のようなものが育つが、それはまだ先のことだ。
長男はノロい。とくに食べるのが呪い・否・ノロい。朝ごはんを食べてもらうのが難儀だ。母親は乳飲み子と真ん中の世話でたいへん。だから、私が長男をなんとかナダメすかし朝のルーティンをできるだけスムーズに進める。その試みはみっともなくバタバタで転がりギリギリで幼稚園の門をくぐってゴールインを遂げる。何とか今日も間に合った。はぁ・はぁ・・・とあらい息をととのえる。ここまでで、すでに1日の半分のエネルギーが消費されてる。
ある朝、朝食にキウイが入った。母親は基本的に心優しい人だったが、子供たちの健康管理、特に栄養に関してはとても気をつかい・きびしかった。前の日に「明日は、これこれを朝食に食べさせてね」と指示される。
キウイフルーツは、今では日本でも普通に手に入るんだろうな。国産もあるだろうし。シドニーで見るのは圧倒的にニュージーランド産。中が緑色で、ゴマみたいな種が円を描いてるやつ。外見は、あの飛べない鳥キウイにそっくり。
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ニュージーランドの国鳥は「キウイ」です。ニュージーランドにのみ生息する飛べない鳥で、国のシンボルとして親しまれています
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そのキウイを半分に切って、小さじですくってプリンみたいに食べる。かんたん・カンタン。でも、長男にとってはそうではない。なかなかキウイに手をつけない。私は時計とキウイを交互に見ながら、イライラが頂点に近づくのを感じる。「私が食べさせてあげようか」私はキウイとスプーンをとって、プリンのようにすくい「ほら、あー・して」と口の中に入れてあげる。長男の眉間にシワがよる。ヤな予感。このキウイは柔らかく熟していそうなのに、どうやら長男の舌には酸っぱいらしい。
ああ、もうほら・絶対口なんか開けるもんかという顔してる。「もうひと口食べようね。ほら・あーして」「ヤダ・食べたくない」「キウイはね、とっても美味しくて栄養もあって、強くなれるんだよ〜」「おいしくない」イライライライライライライライラ・・・。
こんなに嫌がってるんだから、しゃあない。私はキウイの乗ったスプーンを自分の口の中に入れた。その瞬間、母親が私に何か言いたくて顔を出した。スプーンが口に入っている姿を見られた。もう一方の私の手には長男用のキウイがある。ヤバっ。母親は、今日どこそこへ出かけるのでそのあいだ次男を見てほしいといって、2階へ上がって行った。
とにかく時間がないので、私がキウイを消費して、長男には「ほら、私が酸っぱいキウイ食べてあげたから、残りはちゃんと食べてね」と恩着せがましく言って、せき立てる。
その日からだ。子供たちのお母さんは、やたらと私にキウイフルーツをプレゼントするようになった。「あぁ、やっぱり誤解されてる・・・私がキウイ好きなので、子供のキウイまで食べちゃったと思われてる・・・」
私がそのことで怒られたり、辞めさせられたりすることはなかった。母親は大人の対応で、子供じみた私の「抑えられないほどキウイ大好き」を面倒みてくれているのだ。この子にも十分にキウイを与えておけば、子供たちのキウイを盗み食いすることはないだろう。きっとそう思われている。
何で私はそのとき「長男が『酸っぱいキウイ食べたくない』と言って断固として食べないので、捨てるのももったいないから私が食べちゃったんですよね〜。特にキウイが好きなわけでもないんですけど〜」
ヘラヘラっと明るく笑って説明できなかったんだろう。
自分にはこの仕事がちゃんとできるというプライドみたいなものが私にあったのかもしれない。「子供に食べさせることができない」という無能さと「キウイが大好きで食べちゃった」という子供じみた欲を、てんびんかけたら、後者の方がマシだと判断したんだ。若かったし・できないことを認めるのがイヤだった。あと、いろいろ言い訳している自分の姿もみじめな気がした。
だから、その後もキウイが大好きなフリを続けた。
若いということは、それだけでバランスが悪く・バランス崩れてるからカッコ悪く・かっこ悪いのを認めるのヤだから余計なことする・余計なことすると自分の中心がズレズレになる。
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キウイは、ビタミンC、銅、ビタミンKを豊富に含み、多くの重要な栄養素をバランスよく摂取できる果物です。その優れた栄養価により、消化を助け、体重管理や血糖値の安定に寄与します。さらに、心臓や目の健康をサポートし、免疫力を高める効果も期待できます。キウイは、全身の健康維持に役立つパワフルなスーパーフードです。
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今に至るまで、私のショッピングリストにキウイが入ることはない。マンゴーやイチゴ、ブルーベリーは常連だ。ある日、キウイが世界から忽然(こつぜん)と消え去ったとしても気づかない自信がある。
2日前、スーパーに行った時に6個入りキウイが五百円というセールが目にとまった。買ってみようかな。酸っぱいキウイの苦い思い出が頭をよぎる。買った。
最後にキウイ食べたのいつだっけな・・・。半分に切ってスプーンですくって食べた。なんの感情も湧かなかった。特に美味しいとも思わなかったし、まずいとも思わなかった。ただ・ひとつはっきりした。
いつか、キウイ・エピソードを私の小説に書いてやる。
生まれて初めてあなたがキウイを食べたのはいつだろう。え?まだ食べたことない?キウイ食べない人生はかなりカッコいい。あなたの想像力が私の武器。今日も読んでくれてありがとう。
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