デイヴィッド・リンチのマスタークラスをみた パート2(#230)
こないだの続き。
「マスタークラス」というのは映画のタイトルではなくて、有料で視聴できる講義のようなものだ。ステップバイステップのチュートリアルというよりも、どちらかと言えばTEDに近い。その分野に詳しくない人でも、講師の経験や知識、独自の視点から何かを学ぶことができる、そんな内容になっている。
2025年1月15日、映画監督デイヴィッド・リンチが亡くなった(78歳)。そのニュースがきっかけで、youtubeには、彼に関する動画がいくつも上げられたと思われる。その中に3時間に及ぶ彼のマスタークラスがあった。youtubeに(たぶん違法で)上げられているので、無料だ。日本語字幕がないのが残念だが、英語が大丈夫な方は、動画が消される前に観るといいよ。デイヴィッドは、はっきりとゆっくりと話す人だから、あなたも彼の英語、わかるかもしれないよ。3時間じっと観るのはきついので私は作業しながら聞いた。
動画のリンクはこちら。https://youtu.be/OjpAtNrCL54?si=BoZuyGgC6TmoKOH8
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もしあなたが日常的に、クリエイターとして良いアイディアを探す習慣を持つ人なら、この3時間のディヴィッドの話は「うん、わかるわかる、私もそうしたことある」とか「こういう考えはまだなかったな、自分の創作プロセスに入れてみよう」など、すぐにピンとくるはずだ。でも、新しいアイディアなんて考えることほとんどないという人にとっては、話している内容が曖昧に感じられて「で?だから最初は一体何をすればいいっていうわけ?」と、ステップごとに進むレッスンの形式でないことに苛立ち困惑するかもしれない。
私自身は、物心ついた時から常に何かを作リたくて、アイディアを求め続けているので、デイヴィッドの話はどんぴしゃり、すぐピンときた。そして、ツインピークスにどハマりした世代なので、彼の映画の背景にあるものが何かというのが、3時間の話を聞いて、理解できて納得できた部分があった。嬉しかった。
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<CATCHING IDEAS (アイディアを捕まえる)>
「アイディアが全てだ」とデイヴィッドは言っている。彼の映画作りはそこから始まる。
彼にとっては、アイディアは頭を捻って作り出すものではない。何度も「釣り」を例えに出して説明するくらい、それは辛抱強く待って、捕まえるものなのだ。
五万とあるアイディアは無意識の底に潜んでいて、そこに餌をつけた釣りザオをたらす。待っていると、魚(アイディア)が食いつく。引き上げた魚(アイディア)の詳細が初めてその時わかる。しかし、デイヴィッドによると、それは断片(fragments)でしかない。その断片を餌にして、また釣り竿垂らし、次の魚(アイディア)を釣り上げる。そうやって何匹も次々とアイディアを釣り上げて、あつまった断片を広げた時に、そこに何らか繋がりが生まれ、ストーリーが見えてくるという。
デイヴィッドの話にはある特徴がある。全ての創作プロセスは「流れ(flow)」を大事にしているということだ。「りきみ」はない。そして、不安・心配事・ネガティブな思い・怒り・苛立ち・・・などの感情は「アイディアを捕まえる流れ」を滞らせる、よくない要素なので、極力ポジティブでいることは大事だと言ってる。
とはいえ、「全てのアイディアは私たちの生きているこの世界から出てくるものだ。世界は暴力に溢れている、憎しみ、理不尽、そういうもので溢れている」とデイヴィッドはいう。「ちょっと、待ってくれデイヴィッド」と私は突っ込みたい。彼の話を要約するとこうだ。アイディアを捕まえるには、気持ちを楽に、平安に、流れを大事にしておくこと。そして捕まえたアイディアとそれから成り立つ物語は、この世界にある暴力や不安、理不尽を反映しているというのだ。え〜!そうなの〜!それはやだ〜!と私は思った。
だからデイヴィッド・リンチの映画はそういうムードに包まれているのだろう。前にも書いたが「健全でハッピーなチームがダークでバイオレンスな映画を作っている」のだ。
「私はよく言ってるんだよ。映画や本で苦しみを表現するために、実際に苦しまなくてもいい。幸せでいながらも苦しみを描くことは可能だ、って」とデイヴィッドは言ってる。
今日はここまで。次は「デイドリーム(白昼夢・空想)の時間を作ること」についてデイヴィッドが言ってる内容を書こうと思う。
あなたは釣りする?したことある?私は釣りしない。やると絶対ハマって、いろんな道具が増えて、時間も溶けるから怖くてできないんだ〜。あなたの想像力が私の武器。今日も読んでくれてありがとう。