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コーヒーの一枚 44

年末の真っただ中ですが。

実は、約半年前から、わが家のある部屋のエアコンが壊れていた。まだ季節は夏が始まろうとしている頃、激しい雷雨に見舞われた、そんな雷の1つがわが家の1台のエアコンを、エアコンの室外機を直撃した。
それが分かったのは、夏が始まった頃だった。夏が始まると同時に夏バテも始まる旦那が、
「このくそ暑いなか、やっとられん」
エアコンのリモコンをポチっと入れる。しーん。
「おや??」
ポチッ。しーん。
この動きを5,6回ほど繰り返した後、部屋から出てきた。
「エアコン壊れたぁ~」

壊れたエアコンがある部屋は、旦那の部屋で、漫画本やらDVDやらゲーム機やらパソコンやらガンプラやらがたっぷり詰まっている。旦那やそういう世界が好きな人にとっては、宝物がたくさん詰まった部屋で、ネットカフェのようなので、「ネットカフェ部屋」略して「ネカフェ部屋」と呼んでいる。私は興味がないので、私にとっては、ただの旦那の趣味部屋である。

そのエアコン故障が分かって、ほどなくして、友人でもあり、なじみの電気屋さんが来てエアコンを診てくれた。
「あー、こりゃ、落ちとうばい」
落雷確定。すぐ交換と思ったが、今年の夏も暑かったのを覚えておいでであろうか?ちょうどエアコンの取付工事がピークを迎えており、いつでんよかよ~、どうせ旦那の趣味部屋だから緊急性ゼロやしぃ(笑)などと笑って話していたが、そこからあれよあれよという間に半年経ってしまった。

あのー、寒いんですけどー・・・。

季節は冬に差しかかった頃、ダウンジャケットを羽織った旦那がネカフェ部屋で何やらゲームをしながら、パソコン作業をしていて、ふと部屋から出てきたと思ったら、その一言が発せられた。
それもそうやね。寒くて風邪でもひいたらいかんわ、と思って、なじみの電気屋さんに連絡を取り、やっとエアコン交換をする日が決まったのは、もう年末。2023年12月最終週だった。

友人でもある電気屋さんは、お孫さんが数人いるおじいさん。年は取ろうが、技術的な腕は変わらない。わが家のエアコンは、十数年、彼にずっとお世話になりっぱなしである。
そんな職人の朝は、わが家へやって来て、まず外で煙草で一服するところから始まる。そして、いったんリビングへ入ってカウンターテーブルに座って、淹れたてのコーヒーを・・・あ、コーヒーがない。いや、まったくゼロではないが、豆を挽いてもらったコーヒー粉がほぼない。買ってこよう。

車のエンジンをかける。時間も14時ちょい前だし、そのうちおやつタイムにかかるだろうから、自分もコーヒーを楽しもう、そう思って出発した。
今日はどこにしよう?いや、コーヒー粉を買うことができる店じゃないといけないから、限定されてくるなぁ・・・そうだ。あの珈琲屋に行ってみよう。いつも多いけど、今日は入れるかな?

やった!駐車場空いてる!

たどり着いたのは、太宰府天満宮の近くにある『自家焙煎珈琲 蘭館らんかん』という珈琲屋。45年の老舗で、コーヒー界ではその名が知られていると思う。親子で経営されており、息子さんは九州で初のコーヒー鑑定士の資格を取得したり、コーヒーカッピングの世界大会で第3位に輝いたりと、すごい方なのである。詳しくは後ほどホームページを見ていただきたい。

この『蘭館』は人気店なので、平日でも、私が見る時は、駐車場はほぼ満車なのだが、この日は2,3台空いていた。ラッキーと思って車を停める。
車を降りて、扉を開ける。コーヒーの香りが店内に充満している。もうこれだけで癒される。人が一人通れるぐらいの通路の左にカウンター席、右にテーブル席、奥にさらにテーブル席が広がっている。
ひとまず3人掛けのテーブルに座った。

メニューを広げると、メニューいっぱいにコーヒーの名前とその特徴が書かれている。せっかく来たから、上から順番に、と言いたいところだが、お腹の許容量を軽く超えてしまう。うーん・・・。さんざん悩んだ末に、季節限定の「冬珈琲」にした。

撮った!

コーヒーを待ちながら、店の入り口のお持ち帰りスペースで、持って帰るコーヒーを探す。1杯ずつ入れるドリップタイプもいいな。太宰府天満宮の近くにあるから、パッケージに「合格」と書かれた合格珈琲もある。とりあえず1種類ずつ手に取った。コーヒー粉は、コーヒーを飲みながら考えようかな。

席に戻り、しばらく経ったら、コーヒーが運ばれてきた。高まる気持ちを整えて、コーヒーを一口。ん?これは、私には酸味が強くて、目が覚める感じだ。しゃきっとする。そこへケーキセットのケーキが運ばれてきた。チーズケーキだったと思う。もうコーヒーの美味しさに記憶が占領されてしまっている。

コーヒーを飲みながら、ケーキを食べながら、カウンター席を見る。カウンター席を見ながら、数十年前にバイト先の社員さんにここに連れてきてもらったことを思い出していた。
まだ自分が学生だった頃。しっかり青春していた学生の自分は、ある日、人生で初めてちゃんと付き合った彼氏にフラれた。最後は巨乳の彼女と二股をかけられて負けたのだ。容姿だけがすべてじゃなかろうがっ!と今なら声を大にして言う自信がある。
フラれてまだ日が浅い頃、バイト先でよく面倒をみてくれた社員のお兄さんにフラれた話をした。「うんうん」と話を聞いてくれて、「そっか・・・コーヒーでも飲みに行くか?」そう言って、バイト終わりに連れてきてもらったのがこの珈琲屋『蘭館』だったのだ。
お兄さんは、当時『蘭館』が行きつけの店だったらしく、店内に入るとすーっとカウンター席に座り、まだコーヒーの味をそんなに知らなかった私に、店のママさんと談笑しながら、おそらく私におすすめのコーヒーを出してくださったのだろうが、もう味は覚えていない。

ママさんが会計伝票を持ってきた。ふと我に返る。手書きの伝票用紙の裏に素敵な一句が詠まれているではないか。飲みかけのコーヒーと並べて、ぱちり。あ、結局持って帰るコーヒー粉は、今日飲んだ『冬珈琲』にした。
店を出る時に、ママさんが「よいお年を!」とニコニコしながら、見送ってくださった。世界第3位のマスターも、ニコニコしながら注文を取りに来てくださった。老舗だが、昔からの常連さんも、昔来た事がある一人もんも、ネットで調べてやってきた団体さんもすべてを温かく包み込んでくれる珈琲屋『蘭館』である。

年末のわずかな時間の
束の間のゆったり珈琲時間だった。


※今回訪れたのはこちらのお店です。


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