私とわたし
内側が先、外側は後なのよ
そう呟いてみる。
内側が先……
アイスティーのグラスに挿したストローをくわえながら、じっと考える。
内側が先ということは、あれよね
この、胸の内だか頭の内だかでひとりごちているこの声、私のようで時々誰だか分からない、ずっと一緒にいるわりには親しみを感じづらいこの声のことよね?
そう頭のなかでひとしきり論をこねくりまわしてみる。
ううん…
どうもそれは良くないな
頭頂から少し後ろにある辺りの脳がぶぅん、と重苦しい反応をする。詳しいことは分からないけれど、こういう時は体にとって心地良いホルモンは出ていない。出ないどころか欠乏している感じだ。
内観も続いてくると、体の反応の快・不快に敏感になってくる。
ハイヤーセルフの声は聞こえなくても、思考や出来事の諸々に体が快・不快で応えてくる。
それはダメ
それは絶対にダメ
それは続けるとワタシが壊れます
……という具合に細胞という細胞を使ってアラートを鳴らしてくる。
だから我慢を、それこそやせ我慢すら出来なくなってしまった。欺瞞を嫌がるせいで、自分にも嘘をつけなくなってしまった。
だから、内が先
内側が真実なの
それをもうそろそろわかってくれないと
ぎまんをゆるすといつまで経っても
このことがわからないでしょう?
そのことはもう分かったつもりだけど…。
午後の陽射しの届かないドトールの奥の席で、それでも眩しさにサングラスを着けるしかない私はヤレヤレ、とひとり相撲のような問答を続ける。
いまは、こうするしかない時期で、しかもこの先の約束なんてものはない世界だということに時々虚無を感じる。仕方がないけどロウワーセルフの私はそんな時期にある。
誰もアテにならない。
けれど、それが大切なのよね
何が?
誰もアテにならないということが?
そう
だってはじめて身をもって知ったんでしょう?
だれもアテにはならないってこと
それ、ひっくり返せばどういうことかわかる?
…私をアテにするしかない、ってこと?
正解!
そうよ
私がわたしと向きあうの
というか、わたしと一致するの
ゼロポイントをずっと探していたじゃないの
もうそろそろそこにおちついてもいいはずなんだけどな
ふぅ。
分かってるつもりなんだけど、なんでだろう。
自分とだけ向き合うことに虚しさを感じるの。
よーく感じてみて
考えてもいい
私がわたしと一致したときしか、ハイヤーセルフと私が言ってるときのわたしは話しかけられないの
わかる?
わたしの声を聞こうとしてあたまの声を聞いてるときに、私はいつも居心地がわるく感じているでしょ
たいして親しみももてない内側の声、というやつ
それとわたしをごた混ぜにしてしまうのよ
たいていの私は
いま
わたしとはなしていてむなしい?
あー…。
言われてみればそんなに虚しくはないかも。
あなたと話すときは…ちょっと深いところに入る感じなんだね。ハートのところで声がするような感じがするな…。
あ、頭の声はホントにそのまま頭でしている声なのか。
頭蓋骨のほんのちょっと内側で炎症しているみたいな感じなの、頭の声がするとき。
そして大抵心地良くない。
連動して首筋や肩が張って凝る感じもするの。
頭の声とお喋りするだけでも肩こりを助長させてるのか…、ヤレヤレ。ヤレヤレ尽くしだわ。
まぁまぁ
アイスティーをひとくちどうぞ
うん…。
美味しい。
さて、これからどうしようか、私は。
れんしゅうをしましょう
練習。
わたしのこえを聞きわけるれんしゅう
あたまのこえに流されないれんしゅう
頭の声が不快感を伴うのは分かったの。
瞬時に見分けるのはまだ難しいけど。
大抵、最後まで話を聞いてしまうの。
そのあと体の不快感に襲われて時間を大分無駄にしてしまったことに気付いて虚無になる。
あたまのこえも使いよう
だけどそうね
ひとまずはわたしを見きわめること
私とわたしは本来なにもちがわないんだから
幻想をつくりださないこと
私がわたしでいるとき幻想はそこにいられない
ふうむ。
アイスティーをどうぞ
うん、美味しい。
ぬるくなってきたけど。
今日はアイスラテではなくアイスティーにして正解ね。最近ミルクの舌残りが気になってたし。
どこかにいこうとしないこと
ん?
もうどこかにいこうとしないこと
何?
無限遠点よ
わたしは私のむげんえんてん
そしてゼロポイント
オーケー?
あ…、うん。OK。
やってみるけど、流石に私のわたしだけあって、私の一番の盲点を突いてくるのね。ふぅ。
ではアイスティーを楽しんで
美味しくめしあがれ