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問われる

「あのね、聞いておきたいんだけど」

星のカケラの尖った先をそこそこ器用に使いこなして砂浜に絵を描いていた彼女がしゃがんだまま言いました。

「はい、どうぞ」

「………あなたはなにをまっているの?」

「え」

「なにかをまっているでしょ」

こどもの直感というものは時におそろしいものがあります。

「わたしは……」

いえ、わたしは何を待っているのでしょう。問われた言葉にドキリとたじろいだわりに、何にたじろいだのかもよく分かりません。

チビ助のほうのわたしは手にしていた星を砂にグサッと突き立てて「ふー」と言いながら立ち上がりました。お絵かきに満足したのでしょうか。

「ヤキモチ焼きさん。あなた、というかあたし、今朝見た夢の中身覚えている?あなたそこで誰と出会った?」

「あ、それが面白くって!夜に哲学対話というのをやってね、その時初めて会った女の人が夢にも出てきたの。そしたらその場で彼女が呟いた言葉と現実の彼女が日記に書き留めた言葉が一緒だったのよ!すごいでしょう、鳥肌立っちゃった」

「…ノンノン。それは単なる共時性の侵食にすぎないのよ。そっちじゃなくて」

「あら。難しい言葉を知ってるのね。おチビさんのくせに」

おとなの余裕がぐらついたことを隠さねばと、つい揶揄うような言葉が口をつきました。

「場にいる人をからかわないこと。それが哲学対話のルールじゃなかったの?」

わたしの腰の位置までしかない背丈の少女が今や堂々とした眼差しでこちらを見上げています。

「そう……でした。ごめんなさい」

「夢を思い出して。注意深く。丁寧に」

 

思い出す?なにを?わたしは誰に会ったっけ?

「色んなひとが出てきたけれど、だいたいが知らない人たちだったわ。とりたててこの人、と言える人が…」

いない?本当に?

あのシーンのなかにいなかった?あのとき感じた印象は誰由来だった?

「いいえ、やはりそれでは妄想になってしまう…」

ー妄想かどうか、感じる場所をよく見ておいて下さい

ふいに知人の言葉が防風林の松の木立ちの奥から聞こえてきました。


「ようく見ておいて。星の愛でかたをわたしに教えるとしたら、それからね」

はい、と手渡されたのは星拾いをしているときにしぶしぶ彼女に譲ったとりわけ美しい星でした。


これはどうしたものでしょう。


わたしは今どこにいるのでしょう。


待っている、とは何のことでしょう。



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