星拾いの極意
砂浜におりて、薄墨色に暮れだした空からやがて星がポロリ、ポロリと降ってきたのでマッシュルームヘアをした少女時代のわたしと一緒に歓声をあげては走って拾いはじめました。
「ホントにおちてる!これ見て、キレイ!」
走るのが苦手なわたし達ですが、星を拾うとなれば互いに譲らぬ気持ちになってキャー!と笑いながら駆け出します。
一度ならず子どもを差し置いて拾いあげようとする自分に気づき、いけない、おとなの余裕だった、と手を引っ込めます。ですが、そんな時ほどとりわけ美しい光彩を放つ星だったりするわけで……、おとなをやるのは辛いものです。
「わたし、そう言えば羨ましがりのヤキモチ焼きなんだった」
チビのわたしはギョッとした目でわたしを見上げます。
「ちょっとすみませんけど…、あたし、おとなになってもヤキモチ焼きなの?」
潮騒の音。しばらく潮騒をお楽しみ下さい。
「…ねぇちょっと!」
「あ、はいはい。なんだっけ?」
「あなた、というかあたしは!まだヤキモチ焼きなの!?」
「え〜っと……、そうねぇ、割と上手にこんがりと焼くほうかしらね」
「………」
「………」
「おとななのに、全然えらくないじゃない」
「だから、えらいなんてものはないのよ」
「そうじゃなくて!おとなってもうちょっとなんていうか、こどもより色々せいちょうしてるものでしょう?ヤキモチとかなんの役に立つわけ!」
「そうね……。おおむね、立たないわね」
「あたし、ヤキモチ焼くときのあの感じ、大嫌いなのに!こくふく、というものをしてもらわなきゃこまる!」
「克服ねぇ……。あ、でもね。ヤキモチがあるからこそ星も見つけられるのよ、そうよそうよ」
「意味わかんない!あたしのバカ!」
「バカって言う人がバカなんです。ああ、でもこれは本当よ。わたしのヤキモチはとても役に立つことがあるの」
機嫌を損ねたチビ助のわたしは持っていた星で砂に絵を描きはじめます。砂に少女漫画は描きづらそうです。
「まぁ見てなさい。そのうちに分かるから。それはとても性能の良いセンサーみたいなものなの。焼いてるときは気分良くはないけれど、焼き上がったさきにとっておきのものを見つけることが出来るわ、きっと」
波の音に消され、そして既に興味を失ったチビのわたしの耳には届いていないようです。いま、とっておきの秘密を教えてあげたのに。
まぁ、いいでしょう。それはこれから実地訓練を重ねて重ねて自力で気付いていくしかありません。
星は綺麗なものです。綺麗で心地よい冷たさがあって、そして気をつけないと手を切ってしまうように鮮烈だったりするわけです。
拾った星の愛でかたも、そのうち彼女に教えてあげなくてはならないでしょう。
まぁでも、今夜のところはやめておきますか。