冥界から茄子と胡瓜の牛馬に乗って
父が冥界に旅立って30年が過ぎた
お盆の支度の準備であれこれ頭をよぎっていた先日の朝方。
夢の中で父が目の前に現れた。
痰の絡んだ低い声で「お前・・・父親の顔をこんなにじっと見てくれたの初めてだな」
痰が絡んだ声は呼吸器の病気だったからで、今まで何度も父の夢を見たことはあったが、こんなにもありありとはっきりとした夢はなかった。
それにしてもなぜ父をじっと見つめる夢なんか見たんだろう。
生前の父をある面私は苦手なところがあった。口やかましくて怒りっぽかった。が、実は優しくて情が深い人ではあった。
父が逝った年齢をとっくに過ぎてやっと、親の思いを与することが出来るようになったのだろうか。
お迎えの牛馬は庭で採れた胡瓜と茄子でツレが作成。毎年の作業だ。
盆に入ってお墓参りを済ませ、迎え火を焚いた。この時間が好きだ。父母や祖父母や先に逝った妹の姿が目に浮かぶ。
そして、今日はお帰りの日。
あの心もとない牛馬で無事に帰れるのだろうか。父は小柄だったが、肥えた母が乗って大破しないだろうか。そんなことを妄想しながら送り火を焚く。