第273回: 「CMMIのすすめ」1 (わたしとCMMI)
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≡ はじめに
ALTAの話の続きをお待ちいただいた人がいらっしゃったらごめんなさい。
今回から数回、CMMIの話を書きます。
理由は、書きたくなったからです。
司馬 正次先生は「金魚鉢理論」をとなえていました。以前のnoteから引用します。
という方法です。
今回で言えば金魚がCMMIにあたります。CMMIのなかに飛び込んで「はてCMMIとは何か?」を考えてみたので書き留めておこうと思いました。
なお、CMMIですが、その体験記(日本語)をネット上を探してもあまり見つからず、見つかってもウォーターフォールのようにマイナスの側面が強調されておりフェアではない感じがします。
そこで、CMMIって本当はこういうものだよというのをまとめてみたくなりました。
それに湯本さんともお約束してしまいました。
(結果として単発ではなく複数になってしまいましたが……。)
≡ CMMIとは
CMMIとはSPA+SPIのひとつなのですが、それではわからないので、概要を書きます。
しっかりとした紹介は上記でされていますので、ここでは安心して金魚鉢に潜った人から見た視点で書くことができます。ありがたい。
さて、まずはCMMIの普及状況についてです。
こちらのサイトで[APPLY]ボタンを押すと、「Results: 13332 of 13332 Appraisals」とでます。これは、13332の組織が正しい方法によってCMMIの成熟度レベルの評定を受けたことを意味します。レベルごとに調べると、
です。
13332個の組織がCMMIの1~5のレベルのどれかを達成しているということです。13332という数字は世界中でということで、日本では26個の組織です。しかもこれは直近の3年分のデータです。(3年で評定結果は失効してリストから消えるからです)
さて、この13332組織は何をしたかというと、CMMIが持つモノサシで“自分たちはどの段階まで成熟したか”を正式な手順で確認したということです。
ここで、「CMMIが持つモノサシ」とはなにかと、「誰がどのように確認した」の理解が必要です。
「CMMIが持つモノサシ」というのは、カーネギーメロン大学のソフトウェアエンジニアリング研究所(SEI)が作った「CMMI能力成熟度モデル」のことです。このモデルですが、今は、カーネギーメロン大学を離れてISACA(アイサカと読みます)が更新を続けています。
次に「(組織の能力成熟度を)誰がどのように確認しているか」ですが、こちらは、リードアプレイザ1名とアプレイザ数名からなるチームが「決められた方法」で確認しています。
つまり、リードアプレイザーがアプレイザーとともに、評定先のソフトウェア開発の状況について「証跡」と「ヒアリング」をもとに「CMMI能力成熟度モデル」に照らすとどのレベルか確認します。
レベルを確認(これを評定と言います)したときに、1つでも「CMMI能力成熟度モデル」の対象とするレベルに記載していることができていないとそのレベル以上のレベルは不合格となります。
≡ 私の経験
ここで、私の経験について書いておきたいと思います。
■ CMMとの出会い
上記は、2002.02.18の記事です。
CMMIの前身のCMMの記事であることに注意してください。
上記の「富士ゼロックス」のところが、私の経験の一つです。「ISO9000はソフトウェア開発のプロセス改善には役立たない。なぜなら、ソフトウェア開発の専門家が入ってつくった規格ではないからだ」という乱暴な議論のもと、CMM活動は始まりました。
実はこの記事の前の活動となりますが、1995年からCMM活動話はじめ、30ヶ月後の1998年にレベル2を日本で初めて達成しました。
当時、中村淳さん(この10年ちょい先にソニー、その後NTTデータへ)という方がいて会社をあげてCMMをリードされていたことを思い出します。当時はCMMI関係は英文によるものしかありませんし、アセッサーも米国から来ていただいたように思います。
その後、32ヶ月後の2000年12月に、レベル3を達成したのですが、こちらは記事にもありますが日本初ではありません。
さて、当時は以下の『ソフトウェアプロセス成熟度の改善』という本がバイブルで、私なんぞも何度も読み込んだものです。
それで、富士ゼロックスのCMMで思い出深いのは、ドキュメントをゴリゴリ作成できる優秀なMさんを派遣してもらったことと、CMMをやめる決断を行う場にいたことです。
経営者は「せっかく、日本では数社しかないレベル3までとったんだし、プロセス改善は重要だろう。レベル4に向けて続けなさい」といい、
それに対して開発者を代表したSさんが「CMMのなかにある方法は優れています。でも、私たちは全ての工数をお客様に対して使いたいんです。レベル4を取るとなるとそちらに工数が取られます。そのなかにはやるべきこともあるけれど、レベル4を取るためだけにやらなければならないこともかなりあります。」と。
確かに、当時のCMMのアセスメントはそのような弊害が無視できない程度ありました。
また、2002年、2003年あたりは経済産業省の「日本版CMMJ」構想(政府調達基準にCMMを使う方針)に振り回された感じがあります。
その構想はパブリックレビューされ、それに対する「そんなことをしたらレベル獲得競争になるだけであり、かえって日本のソフトウェア産業界はだめになる」という識者の反発がありました。
結局「日本版CMMJ」は、うやむやになったのかな。今も、公共案件の入札条件には「ISO9000もしくはCMMI Level 3」を求められるけど。
■ CMMIとの再会
そんなこんなで、CMMIのレベル達成を目標にはしていない日々が続きました。
日本ウィルテックソリューションに転職したのは、2021年6月28日のことです。仕事の内容は、CMMIのSEPGの一員としてプロジェクトの活動を支援したり標準を改訂したりすることでした。
Facebookに転職のお知らせをしたところ榊原さんからお祝いの言葉を頂きました。
アプレイザーとはアプレイザルをする人のことで、レベル5の時にはアプレイザーの一人としての動きもしたのですが、ほとんどの時間はSEPGとしての活動でした。
結果として2022年2月にレベル4を、2024年2月にレベル5を達成することができました。
CMMIの活動については次回に書く予定です。
≡ CMMIの勉強をされる方へ
日本語で読めるCMMIの書籍としてはCMMIのバージョン1.xをベースとしているものしかありません。(今はバージョン3.0です)
CMMIを提供しているISACAという団体は「CMMI Model 3.0」というドキュメントを作成しているのですが、バージョン2.0から有料です。
これを英語では「CMMI Model」と呼びますが、日本語では「CMMI 教本」と呼ぶことが多いです。そして、日本語版は2.0までで、3.0の日本語版はありません。
実は、バージョン1.3まではISACAのウェブサイトで日本語版も公開されていました。しかし、2.0から有償(ISACAに入らないと購入できない)になったこともあり、そのドキュメントは公開しなくなりました。
今、ググってみると多くのサイトがリンク切れとなっていました。
けど、頑張って一つ見つけました。
https://insights.sei.cmu.edu/documents/86/2011_019_001_28778.pdf
消し忘れと思いますので、必要な方は早めにダウンロードしましょう。とりあえず、勉強したいという人は、こちらのPDF(教本 1.3)を読むのがお勧めです。
http://www.fc-jp.com/fcgroup/fcd/jpn/downloads/cmmi_jp.pdf
≡ おわりに
「CMMIのすすめ」がテーマなのに、今回はすすめるところまでいきませんでした。
単にお勧めする記事ならCMMIのコンサルタントのサイトをお読みいただくことをお勧めします。先にあげた小林さんのページがよいですが、平さんのサイトもよいです。(←全然更新していないようですが……笑)
次回は、「CMMI=SPA+SPI」の話と「CMMIはハンフリーが実装したソフトウェア版TQC」の話について書きます。つまり、「CMMIって何を良くしたいの?」に対する答え(の一つ)についてです。
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