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山本文緒先生へ

去年、私は浮かれていました。
大好きな山本文緒先生の新刊が、
自分の誕生日の前日に発売されて、
やったぁ、これは仕事を休んで一日読み耽ろう!と発売日を知ったときから計画していました。
新刊は、『ばにらさま』。
今までの山本先生の本にはなかった装丁で、
手に取ったときちょっとびっくりしましたが、
とっても素敵なその表紙を何度も撫でました。

『ばにらさま』を読み終え、
もう本当に、この人が大好きだと思いました。
最高だ!
これからきっとまた山本さんの本がたくさん出されるに違いない。
毎年出してほしいけど、
無理はしてほしくないから、
数年に一度でいい。
これからも、ずっと、新刊を楽しみに生きていこう。
そんなことを思っていました。

そんな私は、山本先生の訃報をネットニュースで知りました。
夜、ベッドの中で、ふと山本先生の名前が見えてクリックしたのが訃報のニュースでした。
正直、最初記事を読みながら、
何かの間違いか、嘘情報なんじゃないかと思いました。
衝撃が過ぎて、何も思えないくらい真っ白になりました。
だって、この間まで、『自転しながら公転する』の宣伝でインスタでお話する姿を見せてくれていたし、新刊がでたばかりだし、これからも先生の新作を読みたいと思っているのに、亡くなってしまったなんて。

私は泣き虫で、よく泣きます。
大人としてよくないと思うのですが、
仕事中でも驚くくらい止める間もなく涙が出ます。
長く来てくれていたお客さんの訃報、
ラジオから流れた大女優の訃報、
スタッフが長年共に暮らしてきた猫を亡くしたと聞いた時も泣きました。

山本さんの訃報を知ったとき、
涙が全く流れなくて自分でもびっくりしました。
あれ?やっぱり、作家さんのような作品を通じての好きだと私も泣かないのか、、、なんて思いました。
ぼんやりとしたまま眠りについて、
真っ暗になった天井を見ていると、いきなり突き上げるように涙が出てきました。
何事!!と起き上がり、しばらく流れるままに泣いていましたが、
そうしてやっと私は山本先生が亡くなったことが悲しいと分かりました。

先生の本は、全部は読んでいません。
小学6年生の時に、銃学旅行のお小遣いとして与えられたお金で、買いあさった文庫本は全部読んでしまいました。
新刊もほぼ読んでいます。
仕事をするようになって、新刊がでてもすぐには読まないことが増えたけれど、山本先生の本だけは発売日に買って、すぐに読み始めると決めていました。
先生の本が出る、と知ったら、その日までは絶対に死なないようにしよう、と思えました。
そんな先生の作品で、なんで読んでないのがあるんだと言いますと、
貯金というのか、最後の砦といいますか。
先生がうつ病を患ってから、先生の本はなかなかでなくなりました。
いつこれで筆をおくと言われても仕方ない。
先生の体が一番だ。
そう思い、一冊だけ読まずにおいておいた小説があります。
それだけが今も未読のままの小説になりました。

私は、半年以上、先生が亡くなったことを誰にも言えませんでした。
書店で先生の死を悼み、特設コーナーが出来ているのを見ながら、
涙が出そうになるのを堪えました。
先生が亡くなった。
そういうことが信じられないくらい悲しくて、どうしても口にできませんでした。
私があまりに好きなので、一冊も読んでいないのに知っている作家さんに入っている母に、この間はじめて山本さんが亡くなったという話をしました。
ちょうど角川文庫から『残されたつぶやき』が出版されたタイミングでした。
Amazonの袋から本を取り出し、
眺めている私を見て、「誰の本?」と言われなければ、私はたぶんまだ山本さんのことを母に言わなかったと思います。
この文庫本が発売になると知ってから、
私は物凄くうれしかったです。
物語りではなくても、先生の書かれたものがまた読めることが、
本当に物凄く、浮かれて踊るほど嬉しかったです。
そしてその実物が手の中に来たとき、
ああ、これは大切に読もう、と思って、一番手に取りやすい場所に置きました。
これが、最後なのか、、、なんて思っていました。
そしたらなんと、さらに新刊のお知らせが来て、今度は死者からの手紙が来たんじゃないかというくらい驚きました。
それが昨日届いた『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』でした。

この本を注文するときに、
本文中の抜き出しの文章がありました。
帯にも載っている文章です。

私の人生は充実したいい人生だった。
58歳はちょっと早いけど、短い生涯だったというわけではない。
どんなにいい人生でも、人は等しく死ぬ。それが早いか遅いかだけで一人残らず誰にでも終わりがやってくる。
だから今は安らかな気持ちだ……、余命を宣告されたら、そういう気持ちになるのかと思っていたが、それは違った。
そんな簡単に割り切れるかボケ!と神様に言いたい気持ちがする。

『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』本文より

これを読んだとき、私はしばらく泣きました。
ボケ!と神様に言っちゃう山本さんが大好きだと思いました。
そして、この本は、きっと読みながら泣くんだろうな、、、と思いました。
だって、この少しの文章で、先生の悔しさがものすごく伝わってくる。
もっとやりたいことがあった。
書きたいことも、会いたい人も、悔いは上げたらきりがないくらいあって、とてもじゃないけれど、余命宣告で諦められるものじゃない!
そんな叫びのような気持が、伝わってくる気がして、
思い出しては涙ぐんだりしました。

そして昨日、この本を開きました。
本当は、いますぐ読もうなんて思っていなくて、もう少し心の準備が出来たら、、、なんて考えていたのに、子供が本読みの宿題をしはじめたのに合わせて私もこの本を開いたら、(真剣に子供の本読み聞いてやれよ!と思います。すみません!)もう止まらなくなりました。
びっくりしてばかりですが、音もなく、涙が文章を読むのに合わせて落ちていきました。あんまりに静かに泣いていたので、長男は私が泣いているのに気付かず、「これで宿題終わったからゲームしていい?」と聞き、鼻声で「うん」と言った私のとなりでのんびり島ライフのゲームを始めました。
その間もひたすら流れ続ける涙、、、
しばらくして次男も本読みをしにやってきて、母の状態に目ざとい彼はすぐさま「母、泣いてる、、、」と言いながらそばに来て、私が本を読んでいる、そして泣いている、と観察し、長男に「母は、泣きながらでも読み進めないといけない漫画を読んでいる」と知らせていました笑
(次男は、漫画と小説と絵本が混ざっています。私が読んでいたら大体漫画と言います)
そして自分の本読みを終えると、「母の邪魔になるから、向こう行くよ!」と言って長男を引っ張って行ってくれました。
母思いすぎて心配になるくらい、母ファーストな次男です。

そうして読んでいたのですが、これは晩御飯の支度が間に合わない、、、となり、半分のところでいったん置き、
今日の朝、洗濯物を終えてまた読み始めました。

昨日と同じように、一文読み進めるごとに涙が落ちていき、
もう最後の方は涙で文字が見えない!と手の甲をワイパーにして読みました。
読みながら、ずっと思っていたことは、
もうただただ「先生、ありがとうございます」でした。
先生が、最後まで書くことを好きでいてくれたこと。
これから書こうと思っている話があったこと。
夫さんととても幸せに暮らされていたこと。
東京で一人暮らし感覚のお部屋を持って、それを楽しく活用されていたこと。
病状の悪化や、弱音を吐きながら、こんなのをだれが読みたいんだと書きながら、それでも書いてくれたこと。
いくつもの新しい本を読み、面白かった、と感じていてくれたこと。
ほんの一言でも、先生が本を最後まで好きだったことを知れてよかったです。
ここで知ったものを、また私も読んでいこうと思います。

どの作家さんでも小説とエッセイは、違うものだと思います。
(でも江國香織さんとよしものばななさんのはけっこう小説に近いとも思う)
山本さんもやっぱり違っていて、
小説は本当に機械以上に正確な表現で、人の弱さや強かさ(つよさじゃなくて、したたかさ)をこまやかに書かれていて、物語の面白さとはまた違う、この人の文章がずっと読んでいたいと思う、そういうものを書かれる方です。
エッセイは、それとは違って、的確な言葉を置くよりも正直であること、山本文緒である意思をつよく感じる文章でした。
再婚された生活や、うつ病のなかの生活も。
本当に率直な先生の人柄も、人生の捉え方も、
どこまでこの人は書いてくれるんだ、、、と思うくらい書いてくれていたと思います。
そんな先生だから、この最後の日記も、発売されたことには驚いたけれど、書いていたことは全く驚きませんでした。
本にしてくれて、本当にありがとうございます。

この一冊を読み終えて、やっと、私は先生が亡くなったことを受け入れられたような気がします。
先生がこうして残してくれた最後の日々を、読むことができて、やっとです。
書いてくださって、本当にありがとうございました。
先生の書いて残してくれたものを、私は何度も読みます。
読んでない一冊も、読みます。

もし私が死んだらこれだけは棺に入れていっしょに燃やしてほしいと言っている本は、先生の本です。できたらこの物語たちに包まれて焼かれたいと思ってます。
そんなこと言われても嬉しくないと思いますが、本当に、先生も、先生の残してくれた作品たちも
大好きです。
先生の本がなければ、私はこんなに本を好きにはなっていなかったし、小説を読むこともなかったかもしれません。
先生の小説を読んでいなければ、あの文章に感動していなければ、私は小説を書くことを続けていませんでした。
書くことを続けていなければ、死んでました。
書くことに繋がると思ったから耐えられたことが沢山ありました。
その出発点は、先生の本でした。
本当にありがとうございました。
ずっとどの本も大切にします。
繰り返し読みます。
これからも一番好きな作家さんは山本文緒先生です。

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