見出し画像

「君の歯」から「去った海」までの解説のような

詩の解説のような、です。

さて、はじめましょう。


誠実であることが、全てを肯定していけるかは分からない。
分かりあうことの全てが、相手を受け入れることに全て繋がるわけではない。
かもしれない。
それでも続けていかないことの理由にはできない。
どんなときでも、私は君の思いっきり笑う顔に救われているよ、という詩です。

与えあうことに救いを生むのか
果たして
果たして

智の最上に登り詰めれば掬い上げてもらえるのか
果たして
果たして

誰の輪っかを指に回すの
小さな小指を切り飛ばすわよ

過ぎることのどこまでが信頼で耐えるのか
果たして
どうして

誰も何も救わなくともいいといい
そして君が笑えば見える欠けた歯が楽しいよ

「君の歯」


私を愛するというのに、私の書く詩を止めようとする。
抱きしめることで書くことをとめようとする。
それが悲しいと泣く私を慰めることはしないで。
私はその腕の中でも書き続けてみせよう、という詩です。

あなたが詩と言う右手をとる
捕まるみたいだ

クモが蝶に首を差し出す
先に生きた兆しが疼く
頭を抱えてあげれば
うなりはゆっくりと凝っていく
不安が不安のかたちにまとまり
哀しみが滴の身をまとい降る
頬はやさしく見送っていく

あなたが詩だという右手を
あなたは憎んだ
それを愛と言い違えて
私とあなたは共にいる
あなたが詩という右手を
逃げ込ませたまま
抱き咲く

『右手」


これは、現代詩人協会のイベントでお目にかかった、
山崎佳代子さんの姿を見た感想の詩です。
本当に素敵な詩を書かれる、
そのままの方でした。

ピントの合うひとだった
まわりをぼやかし
その表情をくっきりと魅せる
うつくしいたましいの立ち方だった
一番高い目線を
人は選ぶのかもしれない
自らを離すことに
苦も意識を灯す
つよい引力 一点に吸いこむ
ひとだった

「引力」


山崎さんのイベント中に書いた詩です。
戦争というものを考えたとき、
今地獄を見ている誰かを想像したとき、
それを詩にしたいと思って書いたものです。

千を超える舌が
血の味を訴える
喉の管を爛れさせ
噴きだすように上を向き
千を超えて訴える
囁き声など切り裂いて
つぶらな瞳を握りつぶし
平らかな日々の味を求めるが故に
舌を出すのだ
赤い赤い身を摘めというように
千を超えて
万を潜って
億を跨ぐ
血の味がすると訴える

『血の味」


私の中のあなたは、
どんな状況の中でもあまりにくっきりとして私を潤す。
それはほんの一粒の現実に過ぎないというのに。

どんなに視界が靄がかっても
あなたのかたちはぴたりと
ひらくように
発つように
立っていた

白くぼやけた手さぐりの中
あなたはたおやかに手を振った
心に咲かせよるように
立ち場を入れ替えて入れ替えるように
身を与えていた

私の中を白く焼く
影をかぶって
中から白を食らう
あなたはひとつぶのまま
立っていた

「ひとつぶ」


あなたは忘れ去られる死を待っているのかもしれない。
私の周りはやさしい光を湛えているというのに、
そこがあなたの影を濯ぐ川ならば、
私はけして渡らない、という詩です。

あなたの足は土に成り
あなたの頭髪も土に成り
とけた爪 こぼれた歯 砕けていく骨
忘れられた死を持つあなた

漂う 頼りなき
川をお行きよと諭しても
あなたは爪先のあたりを見る
しずかに しずかに 川の音を胸に流しながら

「川の音」


「黒い黒い黒いもの」が何であるのか。
それはそれぞれに胸に差したものを答えにしてください。

私はその内側にも私を見、
そのなかの手のすべてであなたを分け合おうとする悍ましさ。

黒い黒い黒いものを
やさしく撫でた風は
その香りを 弔う

黒い黒い黒いこの魂は
ふくらんで陽の光に影を与えられる
在り続けていることを証明される

黒い黒い黒い
あの黒の中に腕を詰め込んで
どれほどの手を掴めるだろう

それは無理矢理の行いだ
それはまるで暴力だ

黒い黒い黒いもの
あなたを与え合う私たちを
あなたは許しているのだろうか

「黒い黒い黒いもの」


私の詩。
それはこうやって存在しはじめ、
そうして私に希求を与えるのです。

詩はひとつをえらび入ってくる
そして淡い輝きは瞬き
そっと途絶える

そして ふと
その淡い輝きは甦る
それはあなたの詩となって

あまりに清々とした顔をして
もとから在った場所のように
あなたの手の平を瞬かせる

「あなたの手」


うつくしい川べりの朝の詩。

橋を跳ね返る陽よ
ようよう明るく散っていく
別れの挨拶は長く間を流れ
明日への口付けはあとまわさせる

ほんの僅か 別れじゃない
それが明日の頬を染めていく
今 朝が浴びられる日々よ
私は橋の端で手の中に陽を捕えているよ

「陽よ日々よ」


須磨の海を片手に、
電車は走り去る。
その最中の詩です。

あ、
と過ぎたとき
海はもう見送っていた

私の知らないうちに
遠へく流れ
手の内 胸の最奥には流れつかない

ほんの一瞬
たった一文字
私の遠くへ海は向かった

「去った海」

以上、
10編の詩の解説のような、でした。

いいなと思ったら応援しよう!