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「にんぎょうたちのひかり」(夢の話をお話風に)


目の前の頭がひしゃげた。
赤いものが流れていく。
_こぼれていく?
私たちの手の中の武器の有効性は確かだが、
指揮官たちの握っている情報はあやふやだ。
そして彼らの下す命令には鈍さや、躊躇いや、怯えがあまりにたっぷりとしみ込んでいる。
こんなものに従わなくてはいけないことが、わたしたちの不幸だと思う。
大量に余っていてからだという噂と、
指揮官たちよりもずっと上の、私たちが直接には目にすることがないお偉いひとたちの趣味だという噂が、平等に定説になっている私たちの制服は、
暗い色でまとめればいいのに、赤いスカーフを巻いている。

「やってらんない」

そう口に出して呟いたのが聞こえたのか、
前を行く部隊の指揮官が私の方へ顔を振り向かせて睨みつけた。
_ちっとも怖くないんだよ、お前らなんか。
唇だけを突き出す。
あとは見事な無表情を決め込んだ。
まわりの顔も、同じように口をとがらせている。
まるで私たちの部隊ではこれが土台の顔です、と暗に示しているようだ。
まったくもってそんなことはない。
私たちは無表情で起こされ、そしてそのまま歩兵として出される。
歩いている足元には、もう何体もの人形を見た。
そのどれもが赤い液体を口や、頭や、腹から噴き出している。
圧倒的に壊れている。
そしてそうなってもまだ、私たちは同じ意識を有していた。

はじまりの理由には、もうなんの意味もない戦争をしている。
大袈裟ではなく、お互いに、戦争に巻き込まれ、相手を巻き込み、叩き合い、ここまで引きずられてきた国々同士は、それはもう考えつくすだけの非道をやりあってきた。
もう満足、または満腹の状態で、やっと終わりが手を差し出してくれたのが分かって、より戦闘は激しさを増しているのが、今だった。
_わたしたちには、植えこまれている。
_わたしたちが勝てば、あとには甘く、うつくしい幸福が待っている、と。
子供をお姫様と錯覚させるような、古臭く、そして徹底的な吹き込みは、最初こそ従順にわたしたちを戦わせた。
それがおいしくなくなったのは、いくつの世代が交換された頃だったのか、もうわたしたちにしたって知りはしない。
わたしたちは、じしんの記憶を横流すようになった。
時にはじぶんのことをぎせいにしても、それを受け流すための橋にすることもあった。
わたしは違うけれど、そんな子の存在もたしかに意識の中に確定されている。
わたしたちは、不振を補強し、情報を集めては整理し、そこへ今の状況を照らし合わせ、幾度も回線を断絶しそうになりながらも、ここまで繋いできた。
人は、もう疲れた顔をしていない。
まるで熱に浮かされ続けていないと死んでしまうようだ。
その顔をわたしたちに向けて、進めという。
わたしたちが戦っているものも、どこかの国のにんぎょうだ。
もしかしたら呼び名は違うかもしれないけれど、そんなことは些末なことだ。
この国ほど精密なかたちにはしていないけれど、いくらか昔には同情を買えるようなかたちをしている。
わたしたちと別の国のにんぎょうたちは、似たような、でも全く違う言葉を交わし合い、撃ち合う。
どーん。
どーん。
ど、ど、ど。
ど、ど、ど。
踏みつける同じ形のにんぎょうたち。
腕だったものも、目のパーツの残骸も、赤い液体も、日常だ。
時々本物の人間が混じっていると、珍しくて見入ってしまう。
それを注意されると、注意した子が穴を開けられていたりする。
_ごめんね。
_いいよ。
_もうすぐだと思うから、気を抜かないで。
_もうすぐ、本当に、もうすぐだから_

わたしたちは合図を待っている。

わたしたちは、勝った。
上官の男が泣きながら笑っている。
赤は色鮮やかなまま、あたりを染めている。
わたしたちは知っている。
わたしたちの赤は、毒だ。
わたしたちの毒は、取返しがきかない。
おろかにもこんなものを大量に作ってしまった。
始末もつけられないのに。
人間様は。
性能的にはすでに人間を越えているものを作るとき、
人間は自分たちにだけやさしいように作った。
それは正解だっただろう。
でも、それはわたしたちがきちんと正常に動いている時の話だ。

_わたしたちに天国はない。

_わたしたちに勝利はない。

_わたしたちがなれるものは、ふたつだけ。

幾体か残っているにんぎょうたちは、お互いにかすかな笑みを浮かべた。
これも決めていたことだ。
じぶんたちで、こうしよう、と決めたことだ。
それが叶っていることに、きぶんがよかった。
ほんとうにわらっているみたいだ。
上官の男は、わたしたちのうかべているものに目をとめたが、今の彼らはそれどころではないようで、不思議そうに笑い返したり、不気味そうに目をそらしたりして、お仲間の、またはさらに上官のもとへと向かおうとする。
わたしたちはそばにいるもの同士で手を繋いだ。
転がっているもの、赤い液体を撒き散らしているもの、動くことはもうできないほど原型を失っているものたちが、かすかな、かすかな揺れを起こしはじめた。
それはあまりにかすかで、人間は気が付かなかった。
幾千のにんぎょうとして動いて、兵器を全うしたものが揺れる。
擦れ合う音。
土に染み込む途中の赤の中で。
重なっているおたがいの一部を揺らし合う。
それはゆっくりと、ゆっくりと異変へと変わっていく。
そして完全に目に見える変化となったとき、私たちは光に似た眩いものを起こし合って、おたがいを包み込み、さらに大きな威力へと移り変わっていく。
まっしろだ。
もう、何もかもが、まっしろだ。

_わたしたちは、廃棄物になるか、光になるか。
_わたしたちは、選ぶことにした。




という夢を見ました。
セーラー服の少女たちの形をした“にんぎょう”が銃を抱えて戦場にあふれている光景が異様でした。
それも足元には、死体にしか見えない同じ顔の“にんぎょう”たち。
血なんじゃないか、これは“にんぎょう”って言われているだけで、
本当は女の子なんじゃないか、と思うくらい精巧なものが無数に転がっていました。
私もその中のひとりとして歩いていて、
終始無感情にその光景の一部になっていました。
彼女たちは、髪型がすこしずつ違ったりします。
彼女たちは自分たちのことを、かわいそうとも、不幸だとも思っていませんが、どこかでこの整合性のとれなさが気持ち悪いと感じているのでした。
そして戦争の勝利を祝っている人間のそばで、全てを無に帰して真っ白な視界を手に入れる、という最後で目が覚めました。
こんなお話のようにおち?がついた夢をたまに見ます。
せっかくなので文章にして残しておこうと思います。
夢占いが出来る方いましたら、なんなのか教えて下さるとありがたいです。

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