就活ルールの現実的アップデート案
経団連が就職活動のルールを決める役割から降りると正式発表があり、新たなルール作りに向け建設的な議論が進むのではという期待も、政府が旗振り役となった途端しぼみつつある。激変を避けたい各利害関係者の間に立てば、とりあえず現状維持となることはやむを得ないのかもしれないが、もし本当に今日の報道どおりの結論に落ち着くなら、またもや問題を先送りすることになってしまう。果たして、大きな混乱を伴うことなく現行のルールからアップデートしていく方法はないのだろうか。
ここで私は、企業の採用現場と大学の就職支援の両方を経験した立場から、現実的な提案をしたい。それは「卒業後の就職活動をもっと一般的なものにすること」である。「なんだその程度のことか。すでに新卒採用でも卒業後数年以内は応募可能とする企業も増えているではないか」と思われるかもしれないが、それはあくまで補完的な位置づけであり、それを一般化しようとする意思は感じられない。実際、何か前向きな事情がなければ現役の学生に比べ低評価扱いとされ、企業側も既卒生の受け入れを積極的にアピールしていない。そのため、学生が在学中は勉学に専念し卒業後に就活をスタートしたいと考えても、不安が先行しその決断を下せる者は少ない。卒業後に就活をしても不利になることなく選考に臨めるとなれば、それを選択する学生は相当数いるだろう。もちろん様々な事情で、卒業後すぐに働きたい学生は在学中に就活すればいい。このように、卒業後に就活をする学生の数が増えれば、大学在学中の学業への悪影響が緩和される。在学中に就活する学生に関しては大きな変化はないが、翌年の就活再挑戦も可能になるので、現状の「今年を逃すと後がない」という切迫感はなくなり、学業そっちのけで就活せねばという感覚は薄れるだろう。
この案は、企業側の負担も少ない。新卒採用の枠で、今までより積極的に既卒生を受け入れればいいだけで、日程や採用手法を変える必要はない。現時点では、採用日程のルールについては現行と大きく変わらない形で定められると予想されるため、現役学生の採用はほぼ従来どおり、既卒生もその中に入れてしまえば負担は最小限で済む。もちろん、既卒生の採用日程は自由度が高いので、別枠にすることも企業判断によっては有りだろう。
学生側のメリットは先程も述べたとおり、就活をする時期の選択肢が増えること、それによって在学中の活動への制約が減ることである。学業だけでなく、部活や留学などさまざまな活動への自由度が増すことになる。就活への多少の混乱はあるにせよ、トータルで考えれば学生側の負担もそれほど大きくならないだろう。
ぜひ今回検討される新ルールの中に、新卒採用には卒業後1年以内(年数は議論の余地有り)の者を含めなければならないことと、在学生と既卒生との採用基準に差を付けないことを明文化してほしい。ルールの形骸化を避けるため、特に前者については検証可能なので、ルール違反の企業への何らかの罰則も設けるべきだろう。ただ、罰則規定がなかったとしても、政府主導でこの方針を広く発信し、大手企業がそれに従う形で変化が始まれば意外に早く流れは変わるかもしれない。
実際にこの提案が実現したとしても、おそらく卒業後の就活を選択する学生が初年度から急激に増えるわけではないだろう。しかし、現状数%にも満たないものが10~20%になり、彼らが普通に就職していく実績ができれば、それを見た後輩たちの安心感につながり、割合は増えていくであろう。この流れが定着し、学生が主体的に就活時期を選ぶことが当たり前になれば、もう日程に関するルールなど自然に不要となる。そうなれば、就職に関して長年モヤモヤしてきた企業と大学との不幸な関係もようやく解消され、大学の役割についても前向きな議論ができるだろう。
結果的にいちばん意識変革を求められるのは大学かもしれない。就職率の概念は形骸化しそれを大学の広報に利用できなくなり、就職指導よりも教育の質を求められることになる。ただいずれにせよ、長年続いた企業と学生の騙し合いのような効率的でも合理的でもない旧来型の就職活動からの脱却は、日本の将来のためにも必須であり、今回の提案がそのきっかけになることを期待している。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO36497990V11C18A0EE8000/