ペンタックスSPの思い出(ペンタックス・フィルムカメラプロジェクトに思う)
少し前のニュースですが、ペンタックスがフィルムカメラプロジェクトを発信しましたね。Twitterとかでは、「ガンバレ!」という声と、長年のペンタックスファンで、デジタルの時代でもペンタックスを使い続けている人からは、「ビジネスの収益や企業の体力的に大丈夫なの?」という、客観的な意見も散見されました。
僕自身としても、どちらかと言うと「ペンタックス、大丈夫?」という心情の方が強かったんですが、色々考えると、「カメラ」というアイテム自体の存在意義がデジタル・アナログ問わずに既に危ういのが今の時代で、プロ用の映像機材としてのカメラは存続するとしても、趣味用途の手にしやすい価格のカメラは大手メーカーの製品でも先細りで、やはりスマートフォンの普及に対して、カメラが存在意義をアピールする事自体が難しいと思ったりします。
僕の考えとしては、カメラの一般の人への認知度は、写真撮影のプロセスの楽しさや、手の中に収まる機械をいじる楽しさだったり、日常生活を彩るガジェットとしての存在感が大事じゃないかと思っていて、こういう事は既に各メーカーも色々とリサーチをしたり戦略を打ち出している事ですが、物事のプロセスの楽しみというのは抽象的な感じで、特に写真やカメラに思い入れが無い人にカメラの魅力を伝えるというのは中々出来ることでは無いと思います。
一方、ここ数年続いている、若い人を中心としたフィルム写真ブームは、カメラの存在意義の一つの可能性で、大手メーカーではないペンタックスがその部分に賭けると宣言した事は、キャノン、SONY、ニコンとは違うやり方でのカメラの可能性の手探りなのでは…?と、思ったりします。ペンタックスのフィルムカメラプロジェクトが、写真撮影やカメラの楽しさの起爆剤になって欲しいなと考えながら、以前、僕が使っていたペンタックスのカメラで一番思い入れのある、ペンタックスSPについて書いてみようと思います。
僕が初めて買ったカメラは、京セラ / CONTAX Aria という、フォーカシング以外はオート化された一眼レフカメラで、カールツァイスレンズの描写とブランド力が売りのカメラだったんですが、ツァイスの歴史を辿ってみると、ドイツ製のオリジナルのレンジファインダーカメラのCONTAXとそのレンズ群に辿り着き、そこから機械式の古いカメラに興味が湧きました。
そんな時に、たまたま親戚から祖父の遺品のペンタックスSPを譲り受けた事が、ペンタックスのカメラとの出会いになります。譲ってもらったSPは全体の程度はきれいだったものの、露出計の電池室が電池の液漏れで固着していたり、フィルム室等のモルトが劣化していたという状態で、露出計は諦めて、自分できれいに出来る範囲のメンテをしてそのまま使っていました。
レンズは、Super Takumar 50mm f1.4 とSuper Takumar 135mm f3.5 のレンズがセットでしたが、50mmレンズは、この時代のレンズに良くみられる黄変が激しく、安価で入手したSuper Takumar 55mm f1.8 のレンズを付けて良く使う様になりました。カメラ好きの方ならご存知の様に、SPは、M42マウントというネジ込み式のユニバーサルマウントを採用していて、国内の他メーカーのレンズや旧東ドイツのツァイスレンズ等を使う事ができて、そういう所から、クラシックカメラ沼・レンズ沼に落ちていったという意味でも、SPは、僕にカメラの世界の入り口になってくれたカメラでした。
その時代は、ちょうど20年前くらいなんですが、その頃はライカをはじめとしたクラシックカメラブームで、機械式の古いカメラの魅力に取り憑かれた僕は、色んなカメラを買って撮影してみては売っての繰り返しで、写真をやるというよりは、カメラをいじる、愛でるのが趣味という感じでした。
そんな感じで、色々なカメラに浮気しながら、それぞれのカメラのギミックや、操作作法などを楽しんで行くと、ペンタックスSPというカメラは、非常にシンプルで、真面目で、特別な所は何も無いんですが、昭和の時代のカメラらしい優しさのあるデザインとサイズ感、決して明るい訳ではないけど見やすいファインダー、静かでは無いけど感触の良いシャッター音、タクマーレンズ群の作りの良さなど、カメラとして当たり前の機構がきちんと備わっていて、ネジ式マウントや絞り込み測光という不便さはあってもどこか憎めない感じで、結局、譲り受けたSPはオーバーホールしてもらって、さらにブラックのSPも入手して割とメインに使っていました。
SPに付けるレンズで一番好きなレンズは、一番安価で、中古カメラ屋さんでは誰もが目にする、Super Takumar 55mm f1.8 でした。50mm f1.4 の黄変の無いレンズも入手して使いましたが、わずか5mmだけ望遠寄りの55mm f1.8 は、少し風景を注視する感覚で、ボケも優しい感じで、絞れば程よいシャープさもあって、特別な所は無いんだけど、それがイイ…みたいなレンズでした。
Super Takumar 55mm f1.8 とコンビで良く使ったのが、Super Takumar 35mm f3.5 です。タクマーレンズの中で一番小さくて、35mm の広角レンズとしてみると、明るさや、近接撮影などのスペック的には大した所は無いんですが、昔のレンズらしいノスタルジックな写りをするかと思えば、意外とシャープに写ったりして、最初にCONTAX Ariaを買った時、広角レンズは28mmを購入したんですが、このなんの変哲も無いタクマー35mmレンズが、今の自分の好みの画角の意識につながったと思います。
ペンタックスの一眼レフカメラでは、SPよりも後の時代の、バヨネットマウントになった、Kシリーズ、小型一眼レフのMXやME、フラッグシップカメラのLX、AFカメラ時代のZ1、フィルム終焉期のMZシリーズなど、ペンタックスのカメラを手に取った人によって思い入れのある機種は様々と思いますが、僕にとってのペンタックスは、このSPです。
今、手元には一台もフィルムカメラが無いんですが、それでもたまにフィルムカメラ店のオンラインショップを眺めたりする時があります。フィルム時代に生まれていない若い人向けのカメラを扱っているお店では、ペンタックスSPの整備された個体が並んでいたりします。1960年台のベストセラーカメラだった事もありますが、程よいサイズに無理のない設計、真面目に造られたレンズなど、2023年の今でも使えるカメラであるというのも感慨深いです。
もし、たまたまこの記事を見て、フィルムカメラを買ってみようかなぁ…と考えている方、一眼レフの候補にペンタックスSPを考えてみてはいかがでしょう? 程度の良い中古の機械式の一眼レフとしては、他にニコンFM2やオリンパスのOMシリーズなども目にしますが、特別な所は無いけど、安心感があってカメラとしての愛着も持てる名機だと思いますよ。
ペンタックスのフィルムカメラプロジェクトのロードマップとしては、まずはコンパクトカメラの設計に着手する様ですが、ペンタックスのカメラメーカーとしてのイメージは、やはり一眼レフカメラだと思うので、是非、今の時代に合ったフィルム一眼レフを生み出して欲しいものです。
以下、昔ペンタックスSPとタクマーレンズで撮った写真を貼ってみます。