「川柳ねじまき」第10号―なかはられいこを読む―
関係者各位に雲の名をつける なかはられいこ
この句好きでした! 「関係者各位」ときて「雲の名をつける」。その落差に思わず顔がほころんでしまったのです。このへんはコメディと同じですね。
コメディではよく緊張の緩和、あるいは緊張と緩和なんて言われます。 コントで例示すると、葬式のとき蚊が顔に止まって思わずペチッ! としたり、あるいは「今夜はごちそうだよ〜」と出てきたのがイワシの丸干しだったり、まぁそういうことです。この句もそう。形式張った「関係者各位」に「雲の名」をつけちゃう。何というギャップ。何というゆとり。だがそれがいい。加えて言うと、既成の常識に反逆してやる! といった力みや青臭さを感じさせないのも、掲句の良質な部分ではないでしょうか。あくまでも天然。あくまでも自然体なんですね。
それにしても、短詩型文芸で「関係者各位」が出てくるのって珍しいと思います。関係者各位というと、ビジネス文書なんかの冒頭でよく使われる言葉でしょう。つまり、関係者各位という言葉は、一定の礼節をもって接するべき関係性で使われる「社会常識」なんです。
でも、(言おうか言うまいか悩みますが)詩文芸をやっている人たちって、いかにも社会常識をわきまえてなさそうじゃないですか(しまった! 言ってしまった)。いえ、私自身が社会常識に疎いから他の書き手も巻き込んじゃってるんですけどね。ほんとすみません。で、掲句の「雲の名をつける」もそう。分別ある大人がこんなことをしちゃいかんのです。でも、川柳ではそれが正価値だったりする。何でかと言いますと、社会常識という分別(緊張)の反対側に川柳(緩和)があるからではないでしょうか。もっと言うと社会常識や分別があってこそ、その反対側にある川柳が生きてくるのです。
代案は雪で修正案も雪 なかはられいこ『くちびるにウエハース』