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エアコンの結露にキレている

カンカンテリテリ、相も変わらず夏である。




毎年全国各地で1,000,000,000回以上は軽く繰り出される「今年は暑いね」の話題だが、今年もしっかり暑い。

周知の事実ではあると思うが、僕はそりゃあもう大の夏好きであり、夏が来る度に両の手を上げて庭を駆け回る。

その様はさながらトムとジェリーのトムである。




夏はいい。

身軽な格好で出歩けるし、蝉の声や入道雲といった”夏”をこれでもかと感じさせてくれる要素が満点だし、何より青春といえば夏じゃないか。


暑さというものは、青春と蝉を呼び寄せるための甘い蜜なのだ。

そうだ、もっと暑くなれ。もっと汗をかけ。

そしてセットするのにアホほど時間のかかった僕の髪を汗で湿らせ、触手のようにうねらせ水泡に帰そう。




嗚呼、そのすべてが愛おしい。

summerを聴きながら、真っ赤に染まる空の下を歩こう。




ーーーだが、そんな大好きな夏に一つだけ許せないことができてしまった。

この21年間、夏に対して「許せない」なんて思うことはただの一度もなかった。


しかし今の僕はどうだ。

腹の底から「許せねぇ」とキレ散らかしている。


今までの僕とは別人と言っても差し支えないほどに、この夏で変貌してしまった。

頬は痩せこけ、瞼は落ち窪み、口尻には深い溝がハの字に掘り込まれている。




夏に嫌いなところができた。




人間というものは単純というか阿呆というか、一度嫌いな部分が見えると芋づる式にあれよあれよと嫌なものが目に付くものである。

夏の嫌いなところ?暑いし汗掻くし虫が出るし夜眠りにくいしもう最悪だ。




僕は、このしみったれた凡夫な毎日に、夏に、ひっそりと怒りを覚えていた。




寝ても覚めても、明日に希望を抱き、今日に絶望するのだ。





エアコンからポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタ毎日毎日飽きもせず滴る結露がやかましいわああああああああああ!!!!!!!!!!

っざけんなよ!!!!!ボケェェェェ!!!!!ポタポタポタポタイライラするんじゃああああああ!!!!!!!!!!




嗚呼、僕は夏のすべてを愛すると決めていたのに。

『ぼくのなつやすみ』をサンタさんにお願いするほどのクソガキだったのに。


まさかエアコンの結露ごときで夏に憤慨するとは思わなかった。

冷気と幸福を運ぶ文明の力に、苛立ちを覚えようとは。

夏を嫌いになるくらいならば、文明などいらなかった。必要なかった。






さて、今の状況を伝えよう。


僕の家、もとい部屋は縦に長い四畳半のワンルームである。

以前にもブログにしたが、この部屋にはベッド、デスク、椅子、冷蔵庫、棚が最初から備え付けられてある。

そしてそれら5つの家具家電は互いにひしめき合い、フリースペースはテトリスで言うところの□□□□←このピース分の空間しかない。


つまるところ、床に寝そべったら「Tetris」するのである。もちろん消えてくれはしない。


では、こんな高密度な部屋のどこにエアコンが設置されているのだろうか。

四畳半を冷やすのは造作もないことだが、これだけ狭いとなると冷風が直接当たらない場所が果たしてあるのかどうか。




エアコンはデスクの真上に張り付いていた。

椅子に座り頭を45度上に倒すと、その巨大な存在が鬱陶しく視界に入る。

座った状態でも手を伸ばせば触れてしまうほど天井が低い。


縦にも横にも狭いウサギ小屋みたいな部屋、それが僕の家だ。

まぁ幸いなことに、エアコンの風向きを変えれば直接冷風が当たるという惨事にはならなくて済んだ。

とにかく、僕の視界の上方には長方形の白い塊がずっとある。それが今の揺るがぬ状況なのだ。




しかし4月にこっちへ来て、それから7月の中旬まではそれなりに快適な生活を過ごせていた。

部屋が快適な温度になるのに3分とかからない。

椅子を軸としてピボットのように部屋のさまざまな物にアクセスできる、まさにユートピア。


そう、狭いというのは必ずしも悪いことばかりじゃない。

利点と欠点は表裏一体であり、狭さの中にも良さはたいそう転がっているのだ。




それが、なんだ。




8月になった途端、エアコンから雫がポタポタポタポタ不規則に落ちてきやがる。


YouTubeを見てると、ポタッ。

本を読んでいると、ポタッ。

突っ伏して寝てると、ポタッ。


ポタッ、ポタッ、ポタッポタッポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタうるせぇええええええええええ!!!!!!!!!

時折鳴り響く風鈴とはワケが違う。風情のカケラもありゃしない。

ディストピアだった。エアコンに僕の生死は握られている。




それに何がムカつくって、"落ちてくる”だけではない。




はねる。ヤツは、はねるんだ。


高速で回転するファンの勢いに身を任せて、ピュピュッと僕の顔面目掛けて下品に跳ね散らかしてくる。

これがコイキングの「はねる」であれば「しかし なにもおこらない」で済むが、エアコンの「はねる」は僕に対して「こうかは ばつぐんだ!」である。




滴る結露でパソコンの画面や書物は濡れ、事あるごとにエアコンに顔射される。

計り知れないストレスを運んでくるその白い塊に、僕は冷気という幸福を得るための代償として受け入れざるを得ないのだ。

エアコンの性奴隷である。量らずしも四畳半の男娼に成り下がってしまった。




これでも一通り対策はしてみたのだ。

フィルターを掃除してみたり、風量を上げてみたりと、さまざま。


しかしヤツの性欲は一向にとどまる所を知らない。

僕はヤツによって汚されてしまった。その事実だけが残った。




価値を受け取る者は、それに応じた価値を相手に提供しなければいけない。

小学生でもわかるそんな単純な論理だが、部屋を涼しくするのに己を汚す必要が果たしてあるのだろうか。


わからない。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。

ただ僕は今日もヤツに汚されていく。


この夏が終わった時、僕は夏を好きのままでいれるだろうか。

もしくは何か新しい性癖に目覚めるのではなかろうか。




すべてはヤツが教えてくれる。

四畳半のエアコンが。

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