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#創作大賞感想『夢と鰻とオムライス』 花丸恵さん

作品の引用等がありますので、先に『夢と鰻とオムライス』本編をお読みいただくことをお勧めいたします。

いきなり、何の脈絡もなくて恐縮ですが。

山梨は、いいところです。


この物語の中盤は、その山梨が舞台となっています。

住宅よりも数が多いんじゃないかと思えてくるぐらい、街のあちこちにひろがる葡萄畑。
その葡萄畑にもれなくセットでついている販売所。そう、そこでは試飲もでき(できないところもあるけど)、ワインや葡萄ジュースが一升瓶で、どん! と並んでいて、どえらい迫力を醸し出しています。
(自宅の冷蔵庫に入らないので、私は泣く泣く買うのを諦めました)

そんな山梨が、物語の中でふんだんに描写されています。
山梨びいきの私としては、大変に堪能させていただきました。
ただ私は、まだ一度も山梨で本格的な ”ほうとう” を食べていないんです。
だから物語の中に出てくる ”ほうとう” の場面を読みながら「あーっ、いいなー、ずるいー!!(何が)」と叫んでいました。
次回山梨に行った時は、ぜひとも食べてみたいと思います。
きっとその時もまた、この物語のことを思い出すだろうな。


さてこのお話は、何も山梨の魅力紹介のためのものではなく(そういう効能は充分にあると思いますが)。

主人公の瞬太君と、彼を取り巻く家族・親族関係のあれこれをモチーフに、物語は様々な展開を見せていきます。

読んでいて、しみじみ思い出したんですよ。
「きょうだいが優秀って、けっこう辛い」
ってことを。

でもこれは実は正確じゃなくて。もう少しきちんと言うならば
「親がきょうだいを比較し続けるのが辛い」
んですよね。

やれピアノが上手いの、字がきれいだの、作文で賞を取っただの。
私はずっと姉二人と較べられてきました。これはマジでしんどいです。
だってなまなかの成果では、褒められることすらないんですから。

「……ふうん、すごいね。ああ、でも、お姉ちゃんはもっと上の順位だったけどね」

母親からこういう言葉をかけられるのが、私のごく普通の日常でした。
姉たちも当然、自分たちの方が格上だと思っています。
高校生だった私が、手術の必要なレベルの怪我をした時も、髪ひとすじの心配もせず「甘えてる」と責め立て、無理やり満員電車で通学することを強制した人たちです。
そういう姉たちを叱りつつも、結局制御できなかった両親。

自分語りで恐縮ですが、私は瞬太くんの、そしてこうちゃんの気持ちがものすごくよく判りました。

兄の目に怯えることなく、過ごす毎日は自由に満ちあふれていた(第5話)

私が結婚して家を出た時に感じたことが、まさにこれでした。
もちろん新婚の浮かれもあるでしょう。でもそれとは別に、私はあの家から離れた自由をはっきりと感じていました。
そしてそれは今も同じです。
こういうのって、年月を経てもなかなか解消されないものです。一種の呪いのようなものなんでしょうね。

考えちゃうんだから仕方ない。まぁ、若い頃に溜め込んでた分を、今になって吐き出してるって感じかな。(第5話)

こうちゃん! あなたもですか!!!
思わずそんなことを心の中で叫びました。

でも安心してください。はいてますよ……じゃなくて(すみません)。

彼らは、強い。いやつよい。

勉強できなくても、時にヘタレでも。
意地張ったり、踏ん切りつかなくても。
それでも前を見て、先に進もうとする。

山梨におわす葡萄の神様は、そんな彼らを見捨てはしないのです。そして、そんな彼らを愛するのです。

きっと彼らは、いつかその手で幸せを掴むことでしょう。
そんな光と救いを感じさせてくれる物語でした。


最後にひとつだけ。

瞬太が買った葡萄の『甲斐路』は、すっごく美味いぞ!!!



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秋田柴子
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