#創作大賞感想『猫ヶ洞の王さま』 へいたさん
へいたさんの書く物語は、読むと不思議な気持ちになる。
――これは小説か。童話か。それとも絵本のお話なのか。
今のところ、私の答えは
「どれでもあって、どれでもない」
へいたさんの書く物語は「へいたさんのお話」と呼ぶのがいちばんしっくりくる。
おお、新たなジャンルの爆誕だ。
さて、そのへいたさんの筆による『猫ヶ洞の王さま』である。
この物語のベースとなるお話は、過去にも発表されている。
だが今回は、これまでのこぢんまりとしたショートショートをはるかに上回るスケールで、へいたさん縁の地である名古屋を舞台に物語が展開されていく。
いつものまねきねこ的なちょっとトボけた世界観はそのままに、時にミステリー、時にアクションドラマのような様々な顔を見せていく。
日本の歴史、そして地域の郷土史、そして余りある猫への愛とともに描かれたへいたさんのお話は、まるで民話か何かを読んでいるようでどこか懐かしい。
主人公・佐々木さんは、ごく普通の人だ。お仕事は真面目で堅実、性格も真面目で堅実。時に窓を閉め忘れちゃったりもするけれど、猫を愛し、日々の小さな幸せを大事にして、丁寧に誠実に精一杯生きる人。
食器にそんなにお金を払うなんて信じられなかったからだ。大人になって働くようになればそうなるのかもと思ったが、ごめん、いまだになってはいない。(第4話)
――判る。私も学生時代に同じことを考えてた。今でこそごくたまにいい食器を買わないこともないが、そのたびに何日も何回もネットの波間を探し回り、時には直接店まで足を運び、清水の舞台どころかスカイツリーから飛び降りるぐらいの決意でようやく買うぐらいだ。
(そしてしばらくの間『こんな高いもの買っちまってどうしよう』的な動揺にうち震える)
その佐々木さんの大事な飼い猫 ”コサブロー” がいなくなることで、彼女の慎ましやかな生活は、大きく動き始める。
私が無くしものをしても探さなくなったくらいだった。「そのうちコサブローが持って来てくれる」と思うからだ。(第2話)
マジですか。そんな賢い猫がいるのなら、ぜひお迎えしたいです。
そのコサブローを探して、佐々木さんは職場を中心とした名古屋の街を探し回る。不思議な同僚の力を借りながら。
いや、見事な構成でした、ほんとに。
歴史と地理と民俗学的な話がうまーく融合して、それが物語という舞台にすっぽりはまったような感じ。へいたさんのアイコンでもある、おなじみの ”まねきねこ” (招いてないけど)も出てきて、まさにオールスターキャスト的な展開は、派手じゃないけど、賑やかだ。
そして真面目に話してるかと思うと、時に猫パンチのようにしゅわっとユーモアの足払いを喰らって、こちらは見事にずっこける。
「ーー私、カネコです」(第7話)
手に汗握る、というのとはちょっと違って、陽あたりのいい縁側に座布団置いて、膝に猫をのっけたばあちゃまに本を読んでもらっている子供のような気分になれる。何回読んでもらっても、もう話のスジもオチも、登場人物の台詞まで覚えちゃってるんだけど、それでもやっぱり読んでもらいたくなる物語。
それが「へいたさんのお話」です。
では、最後に一言。
サムネイルが毎回センス良すぎ!!!
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