#創作大賞感想『残夢』 豆島 圭さん
もう、ね。
この作品については、今さらワタクシが……
そう、今さら!!!!!!!!
何ですか、この出遅れ感!
なんですか、あのコメント欄や感想文の盛り上がりよう!!
ええ、判っております。判っておりますとも。
自分の『創作大賞2024』に取っ散らかって、落ち着いてコメントや感想書く余裕のない、秋しばのマルチタスク苦手ぶりを晒しているだけでげす。
でも。
そんなヘタレな私でも。
毎日、読みました。
どんなに自分の原稿がしんどい時でも、これは投稿されるのを心待ちにして読みました。時に外した時は、何としても距離を離されまいと、必死についていきました。
『リアルな日常と闇を描く警察ミステリー』
作品紹介には、そう書いてあります。
それはもちろん嘘じゃなくて(当たり前だよ)。
でも、とてもそれだけじゃない(もっと当たり前だよ)。
たぶんこの話を読んだ方によって、どこに重きを置くかは本当に様々なんじゃないでしょうか。
男女の性差問題ひとつ取っても、
夫婦の在り方なのか。
社会的な男女平等論か。
性被害の多い女性(それはそのまま、性加害の多い男性とも言える)の辛さと哀しみ、憤りなのか。
単に読者の性別だけでなく、各々の生きてきた人生や今現在の環境によって「刺さる部分」がかなり違う気がします。
それはそのまま、その読者の(自分も含めて)心の闇の部分と言えるのかもしれません。ちょっとだけ挙げてみます。
第一章⑦亀裂
振り向けば、後部座席に誰も乗せていないことに気づいたのだろうか。
家庭に限らず、けっこうあるんじゃないでしょうか。仕事や組織なんかでも、自分は一生懸命に、それこそ全身全霊で打ち込んでいるつもりで、ふと気づいたら誰もついてきてないことって。
でもそれって、必ずしもその人の独りよがりだけが原因じゃなかったりします。まわりが無理解ってこともあるし、わざとその人だけに押し付けてることもある。もちろん、本人が聞く耳持たずで突っ走ってるケースも多数。
でもこれに気づいた時の何とも言えない虚脱感は……ああ、しんどい。
最終話・藤岡
「男の性犯罪者は平気で野に放つのに」「ビクビクすればいいんですよ」
これは、重い。本当にそのとおりだから。
よほどに鍛えた女性でない限り、腕力・運動能力で男性に対抗するのは難しいです。だから多くの女性は(すべてとは言いません)、心のどこかで本能的に男性を警戒する習慣ができてしまっています。
それは恋愛とかとは別のフェイズの話です。
男性の方も、もし自分が密室で屈強なレスラーかなんかに取り囲まれたら100%の安心はできないんじゃないでしょうか。「いや、俺たちはあんたに危害加えないから」って言われても、その人たちの気が変わったらもうアウトっていう状況。
そして、いつ気が変わるか判らない。← これが重要
だってもし何かあったら、どうあがいても絶対勝てない相手ですもんね。
女性に性被害が多いのは事実で、そのために自衛が必要とされるのもどうしようもない部分はあります。
これは個人的な意見ですが、私自身はその事実そのものより、その事実に対して「なるほど、そういうものか」と、想像力を働かせてもらえないことの方が辛い。「女の方にも隙がある」的な安易な指摘に結論づけられてしまうことの方が辛い。
でもひとたび男性に被害が及ぶとなると、突然社会や組織が対策に本腰入れたりすることも多々あります。何につけ改善されるのはいいことですが、ちょっとモヤモヤするものを感じたりもします。
自分も含め、やはり自分とは違う立場の人に対する想像力というものが必要なのかな、と思います。
(同性同士でも心ない発言をする場合はあるので)
この最終話の藤岡の発言は、こんな感じでずいぶんいろいろと考えさせられました。それもまた、私が抱えている闇のひとつなのかもしれない、と思わせるのが、この物語のいちばんすごい力なのかもしれません。
しかしまあ、登場人物の個性豊かなこと。そして台詞回しが非常に上手いですね。ちょっとした感情の揺れや本音が滲んでいます。そして地文もとてもテンポがいい。情景豊かではあるけれど過剰な表現はなく、シンプルに削ぎ落された文章にぐんぐん引っ張られました。
構成やちょっとしたリアリティ描写にも貪欲で、最初から最後まで途切れることなく手に汗握る迫力を感じさせます。まさに私が憧れてやまない『page turner』でした。
そして最後に一言。