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バンドを組む残像【毎週ショートショートnote】

これは驚くべき事実なのだが、ホラー小説の帝王スティーブン・キング氏は、作家仲間とバンドを組んでいたという。1990年代初頭に1回限りの企画で始めたものの、あまりに楽しくてそのまま続けたらしい。
キング氏曰く「ナイトクラブのお抱えバンド程度のギャラなら取れるレベル」だそうだ。


「――こういうのを聞くとさ、『天は二物を与えず』ってのは大嘘だって思うぜ」

作家志望の友人がビール片手に吐き捨てた。

「作家としてあれほど成功してるのに、音楽でもスポットライトが浴びられるんだぜ? 小説家だって音楽家だって、なりたくてもなれない奴がごまんといるってのに」

「まあな。でも羨ましくはないけど」

「何でだよ」

「キングのいるバンドだろ? 実は何やら訳アリの会場だったり、観客の中に狂ったストーカーがいるかもしれない。楽器が呪われてて、メンバーが1人ずつ消えてくとかな。なのになぜか音楽は止まず鳴り響いて……」

友人は大袈裟に天を仰いだ。

「さすがキングだ。客が観てたのは、彼らがバンドを組む残像だったのかもしれないな」


【あとがき】
スティーブン・キング氏が今でもバンド活動をしているかどうかは不明ですが、一時期はとても熱心にやっていたようです。

私はホラーが苦手で、キング氏の作品は『シャイニング』しか読んでいないのですが、このたび公募ガイドさんのnote記事で、彼による『小説作法』の存在を知り、さっそく書店に走りました。

ちなみに現在は新装版(文庫本)になり、タイトルも『書くことについて』と改められています。
その最初の一行めに、このバンドの話が書かれていて仰天しました。
さすがスティーブン・キング、驚かせてくれます(笑)

それとは別に、この『書くことについて』は、現在小説を書くことについていろいろ悩んでいる秋しばには、非常に有用かつ貴重な本でした。
何より読み物としてまず面白くて、それだけで充分勉強になります。
2000円近かった単行本から800円の文庫本になり、おサイフにも優しいです(笑) よろしければぜひぜひ!


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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秋田柴子
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