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ダンスのある暮らし ~ 上手くなくていい。体を動かすと、人生も動き出す ~

本記事は、現在受講中の「京都ライター塾アドバンスコース」で出された、「インタビュー原稿を書く」という課題に対して、記事のテーマや取材内容など、企画をイチから立て、執筆したものです。

国内外、ジャンルを問わず音楽が好きです。聴くだけなく、ミュージックビデオや音楽番組を観ることも。パフォーマンス映像でよく目にするのが、アーティストが歌いながらダンスをしている姿。時にカッコよく、時にかわいく表現されるダンスは、歌の世界観を何倍も魅力的にする力があります。あんな風に踊れたら…ぼんやりダンスに憧れながらも、すっかり大人になった私には、画面の向こうの遠い世界だと思っていました。

そんな中で出会ったのが、3年前にBTSにハマリ、45歳で新たにヒップホップダンスを習い始めたという、エッセイスト・ライターの江角悠子(えずみゆうこ)さん。毎週レッスンの様子を欠かさずSNSにアップされている姿が、とても楽しそうで気になっていました。 そこで江角さんに、ダンスの楽しさや、ダンスを習う前と後の自身の変化などをインタビュー。すると、ただ「踊る」だけではない、ダンスの魅力や効用が見つかりました。

■BTSに憧れて

京都で暮らしながら、様々なウェブメディアや全国誌で活躍中の江角さん。さらに、ライター塾の運営、ZINEの制作、オンラインサロンや私設図書室の主宰などなど…多彩な活動を展開しています。また、2人の子どもを育てる母親でもあります。
 
忙しい日々を送る中で、ダンスを習い始めたきっかけは、何だったのでしょうか。
 
江角さん:
「当時、娘がBTSにハマっていて。それまで私はKポップのことを全然知らなかったのですが、娘と一緒に、BTSのMV(ミュージックビデオ)を観るようになりました。半年くらい流し⾒をしていたのですが、Butterという曲がリリースされた時に、改めてちゃんとMVを観て、曲とダンスのかっこよさに衝撃を受けました。特にダンススキルの高さに目を奪われたんです」

江角さん:
「そうして、繰り返しMVやパフォーマンスの動画を観るうちに、私自身がすっかりBTSにハマってしまって。それが高じて、『私もBTSみたいに踊りたい!』と思うようになりました。結果的に、6月にButterを知って、その年の10月にはダンスを習い始めていました」
 
さらりと語られる経緯を聴きながら、その行動力に驚きます。
やったことのないヒップホップダンスを習うことに対して、できるかな?といった不安などはなかったのでしょうか。
 
江角さん:
「もともと、学生の時にモダンバレエや新体操をやっていたので踊るのが好きだったということもありますが…不安よりもBTSのように踊りたいという気持ちが勝っていました。“推し”の力は強いですね(笑)。ただ、ダンス教室探しは苦労しました。子どもや若い人向けの教室ばかりで、大人が通いやすいところがなかったんです。そんな時に友人が、40代以上を対象にした初心者限定のダンス教室に通い始めたと知り、体験レッスンへ行ってみました。雰囲気が良く、先生もとても素敵で。純粋に楽しかったのと、想像以上に踊れなかったことが悔しくてもっと踊りたい!と思い、すぐさま通うことに決めました」

■レッスンの時間に合わせて、仕事や家事をやりくり

こうして、週に一回の頻度でダンスレッスンを習い始めた江角さん。
はじめはダンススタジオが車で往復1時間もかかる場所だったこともあり、レッスンの日はレッスン最優先で、1日のスケジュールを組んでいたのだとか。
 
江角さん:
「レッスンがはじまる夜8時半までに、仕事も家事も必ず終わるように段取りをし、1年半くらい通い続けました。その後、スタジオの場所が、家のすぐ近くに移転したり、スタート時間も少し早くなったりといった変化はあったのですが、レッスン最優先のスケジューリングは変わりません!もちろん、家族の協力があるからできることであり、夫や子どもにはいつも感謝しています。幸いダンスを始めて、家族の中で『お母さんは⽔曜⽇にダンスレッスンに行く』というスケジュールが定着し、ここまで継続できています」
 
とはいえ、仕事も家庭のことも、必ずしもいつも想定どおりに運ぶとは限りません。
時には、こんなエピソードも…
 
江角さん:
「出かける前に家族とケンカをして、泣き顔でレッスンに行った日もありました(笑)。鼻が真っ赤になって恥ずかしいので、さすがにやめようかなと考えたんですが…。むしろ行くほうが元気になる!と思って。レッスンに行ったことで、本当にリフレッシュできましたね」
 
どうやら江角さんにとって、ダンスはすっかり生活の一部として、なくてはならないもよう。
ダンスの楽しさや魅力とは、一体どんなものなのでしょうか。
 
江角さん:
「思ったとおりに、表現できた時はとても楽しいですね。先生の動きを再現しようとしても、まだまだ全然できなくて。たまに、イメージ通りに体が動く瞬間があるのですが、伝えたいことが文章でうまく書けた時のような、爽快感があります。そうして懸命にダンスしている時は、何者でもないありのままの『私』になれると感じていて。ライターでも母親でも妻でもない、色々な立場や役割から解放された、『私』に戻れることが、とても楽しいです」

■スキルを磨くだけではない。ダンスが、私にもたらしてくれるもの

▲ファッションもヒップホップダンスの大事な要素。ダンスを始めて、オーバーサイズの服を着るように。

何かを新しく始めてみたいと思っても、日々に忙殺されて、先延ばしにしがちな私。
一方で、ダンスをしたい!という気持ちにフタをせず、日常と折り合いをつけながら実現し、楽しむ江角さんの姿は、とても軽やかで清々しく映ります。そんな江角さんに、大人になって新しく何かを始める醍醐味について、伺ってみました。
 
江角さん:
「自分が本当に『やりたい』と思うことを、自分にやらせてあげられる喜びがありますね。日常生活には、やりたい、やりたくないに関わらず、やらなければいけないことがいっぱいあるじゃないですか。私の生活の中では、ダンスって、たぶん一番やらなくてもいいことなんですよ。ダンスをするために、お金も時間も新たに捻出しないといけないですし。それでもするのは、私にとってダンスは、素の自分に戻ることができる、かけがえのない時間だから。たんにスキルを教わって身に付けるだけではない、それ以上の価値が、ダンスを習っていることにあると感じています」

■ダンスを習ったら、体だけでなく人生も動かせるようになった

さらに、ダンスは自身の人生にも良い影響をもたらしているのだとか。具体的にはどのようなことなのでしょうか。
 
江角さん:
「今は色々なことに対して、行動ができるようになったと感じているんです。それは、ダンスのレッスンを通じて、脳から体を動かす指令を体に伝え、体がその通りに動くよう練習をしているからかなと思います。例えば、右足を前に出す、体を回転するといったふうに。うまく踊れない時は、脳から体への指令がうまく届いていないから。スムーズに体を動かすことができるようになると、日常生活にもその流れが応用できるようになった気がしています。例えば、『旅行に行きたい』と思ったら、旅行に行くための手配をする。『気になっていた人の講座を受けたい』と思ったら、講座を申し込む。このように、頭で考えたことが、体の行動につながっていく感覚があるのが、ダンスを習う前と後の明らかな変化だと思います。ダンスってすごいですね」

▲江角さんが「本当に書きたいことを書いた」、エッセイ集のZINE。イベントやインターネットでの販売を通じて、たくさんの人に読まれている。

そのことばどおり、やりたいと思ったことを行動に移した結果、昨年は2冊のZINEが刊行できたそう。ダンスで得た学びをいかして、確実に自分の人生を動かしている様子が伝わります。
 
そしてこの春には、新たなチャレンジも。なんとダンスを始めるきっかけとなった、BTSの「Butter」を、イベントで踊って披露することが決定。目下、仲間と練習に励んでいる最中だとか。
最後に、ダンスに関して、これからの目標を伺いました。
 
江角さん:
「もっとかっこよく踊れるようになりたいので、極めていくだけです。一つずつスキルを身に付けて、レベルアップしていきたいです」

▲ダンス仲間と。多忙な人ばかりだが、皆ダンスが好きで、合間を縫って練習に励んでいる。

ダンスについて語る姿が、終始とても生き生きとしていた江角さん。
お話を伺って、それまで遠巻きに眺めていたダンスの、楽しさや魅力に触れることができたような気がします。
 
そして、「自分がやりたいことをやる」という選択肢をいくつになっても、持っていたいなと感じたのでした。

【写真】江角さん提供(2〜4、6枚目)、著者撮影(1、5枚目)

 Profile 

江角悠子

京都在住 エッセイスト・ライター/ときどき大学講師
京都関連の書籍や全国誌で記事を執筆するほか、書籍のライティングも行う。自身の生き方・考え方をエッセイにまとめたZINE2冊を刊行。
『書くを仕事に!京都ライター塾』(2020年~)を主宰し、数多くのライターの活躍をサポート。2018年からは、同志社女子大学で非常勤講師として『編集技術』を教えている。レトロ建築・旅・北欧雑貨好き。新婚旅行で、フィンランド・スウェーデン・デンマークを訪れたことも。


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