レコーディングの裏側
突然ですが、新レーベルsonoritéを立ち上げ、CDのプロデュースを始めます。
記念すべき第一号は、ピアニスト大内暢仁氏のバロック・アルバム。バッハ以前の北ドイツのバロック音楽を愛し、ブクステフーデやラインケンを、あえてモダンピアノで弾いている変人。僕はこういう変人が大好きです。演奏も深い研究と愛がにじみ出ていて共感します。
たとえばバッハの作品は、書かれた音楽そのものが普遍的にすばらしいから、チェンバロやクラヴィコードで弾いても、現代ピアノで弾いても、そこに宿っている精神はビシバシ伝わってきます。むしろ、ピアノだからこそ伝わってくるものも大きい。彼は、それをバッハ以前の音楽でやろうとしている人で、僕は彼のピアノによるパッヘルベルを聴いて、この作曲家への認識が変わりました。考えてみれば、バッハはピアノで弾かれるのに、それ以前の音楽は顧みられず、一部の古楽界隈でしか知られないニッチな音楽に留まっているのは不思議なことです。
大内君は、バロック音楽にまつわる諸問題を丸山桂介氏に学び、恐ろしく深いバロック沼にどっぷりと浸かっている人物です。その半端ない知識が、生き生きとして噛み応えのあるオーセンティックな演奏にあらわれています。
9月1日〜3日、埼玉県のコピスみよしでセッション・レコーディングをおこないました。
ホール・レコーディングでは、楽屋がこんな風に様変わり。ステージに設置したスピーカーを通じて、遠隔で演奏家に提案したり、一緒にプレイバックを聴いたりしながらブラッシュアップしていきます。
よりよい演奏が録れるよう、全力でサポートにあたりました。編集ポイントも即座に判断し、演奏家が疲れすぎないようマネジメントしていきます。僕は、自分のレコーディング経験からディレクションの重要性をいやというほど実感しているので、頑張りました!
ディレクターと演奏家は、一緒によりよいテイクが録れるよう模索していくので、同じ方向を向いている必要があります。僕もバッハを愛奏してきて、オーセンティックな演奏とはどうあるべきか、ということをそれなりに考えてきたつもりなので、彼から録音の計画を聞いたとき、これは自分がディレクションするしかないだろう、と尻に火がついたわけです。
このアルバム制作にあたり、最強の布陣をコーディネートしました。タカギクラヴィア所蔵のニューヨークスタインウェイを持ち込み(調律はもちろん高木裕さん)。エンジニアは元日本コロムビアの北見弦一さん。これで名盤が生まれないはずがないですね!コーディネートはこうでねえと。
↑スタッフ集合!高木、大内、内藤、北見。
今回のラインナップは、ブクステフーデ、パッヘルベル、ラインケンなどで、そのほとんどが現代ピアノでは世界初録音となります。大内君の知的で愛のあるピアノで、きわめて資料的価値も高い録音がとれて嬉しいです。
初期バロックの秘曲が、ニューヨークスタインウェイのクリスプなタッチと、共感あふれる大内君の演奏で躍動し始めます。CDの完成をどうかお楽しみに!
↑チラリズムすぎてごめんなさい…^^;
また、書きます。
内藤 晃(ピアニスト、sonoritéレーベルディレクター)