内藤 晃

ピアニスト。sonoritéレーベル主宰。月刊ムジカノーヴァに「作曲家のレッスンを覗いてみたら…」、月刊音楽現代に「名曲の向こう側」を連載。楽譜やCDの解説多数。音楽の奥深い面白さをカジュアルに発信していきたいです。http://akira-naito.com/

内藤 晃

ピアニスト。sonoritéレーベル主宰。月刊ムジカノーヴァに「作曲家のレッスンを覗いてみたら…」、月刊音楽現代に「名曲の向こう側」を連載。楽譜やCDの解説多数。音楽の奥深い面白さをカジュアルに発信していきたいです。http://akira-naito.com/

マガジン

  • ディレクターのひとりごと

    新しく立ち上げたsonoritéレーベルのプロデューサー&ディレクターとして、CD制作の裏側をつぶやきます

  • 作曲家・名曲よもやま話

    作曲家や名曲にまつわる知られざるエピソードをご紹介します。お馴染みのあの曲も、まったく違った意味をもって聴こえてくるかもしれません。

  • 読書案内

    作曲家の一次資料(手紙、弟子の証言など)を読み解き、その音楽へのアプローチの橋渡しをします。

  • ピアニスト解剖

    ピアニストだから書けるディープなピアニスト評をめざしています。

  • 知られざるベートーヴェン

    ベートーヴェン生誕250年にちなんで、知られざるベートーヴェンの素顔を気ままにご紹介していきます

最近の記事

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シューマンとショパン

「諸君、帽子をとりたまえ、天才だ」といってオイゼビウスが楽譜を一つ見せた。表題は見えなかったけれども、僕はなにげなくばらばらとめくってみた。この音のない音楽の、ひそかな楽しみというものには、何かこう、魔法のような魅力がある。それに僕は、どんな作曲家もそれぞれみるからに独特な譜面の形をもっていると思う。ちょうどジャン・パウルの散文がゲーテのそれと違うように、ベートーヴェンは譜面からしてモーツァルトと違う。しかし、この時はまるで見覚えのない眼、何というか、花の眼、怪蛇の眼、孔雀の

    • 三原貴之さんのベートーヴェン––Director's Note

       このたび、わたしの主宰するsonoritéレーベルで、三原貴之さんの奏でるベートーヴェンをご紹介できることを心から嬉しく思う。彼は、素晴らしい若手ピアニストであると同時に、慶應大学の博士課程で抗菌薬の研究に携わる研究者としての顔も持っている人だが、その音楽は、アマチュアの域を超え、ユニークかつ普遍的な説得力で聴き手の心に迫ってくる。悠然とした音楽の呼吸は、巨匠的な円熟味すら感じさせる。  三原貴之さんは、幼少時からピアノを学び、お父様の転勤に伴って中学入学のタイミングで大

      • ラヴェルの弟子、アンリエット・フォール

        Roger Nichols氏による、作曲家の回想録(Remembered)シリーズは、近しかった人たちの重要証言が網羅されていて、たいへんに興味深いものです。 わたしも一通り揃えて時々参照するのですが、ラヴェル編に収められた次の証言にはびっくりしました。 アンリエット・フォールは1922年(17歳)にラヴェルに師事し、翌年シャンゼリゼ劇場で世界初のオール・ラヴェル・リサイタルを開いた女性ピアニスト。世界各地でラヴェル作品のツアーも行った、ラヴェル演奏のパイオニア的存在です

        • 奥村智洋×安井耕一 ブラームスの夕べ

          奥村智洋さん(ヴァイオリン)と安井耕一さん(ピアノ)による、ブラームスのヴァイオリンソナタ全曲の演奏会が、10月に開かれます。わたしが深く共鳴してやまない音楽家お2人による演奏会で、東京公演はソノリテが主催しています。 【東京】10/11(水)19:00- 五反田文化センター 【札幌】10/19(木)19:00- ふきのとうホール このお2人をお繋ぎできたことを、心から幸せに思います。昨日、初回のリハーサルに立ち会わせていただき、あまりにも豊かな音楽に、胸が一杯になりまし

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        記事

          ワーグナーを嘲笑するゴリウォーグ

           クロード・ドビュッシー(1862-1918)の《子どもの領分》(1908年)。愛娘シュシュのために書いたこのチャーミングな組曲のフィナーレを飾るのが、〈ゴリウォーグのケークウォーク〉です。一風変わったタイトルで印象に残りますね。ケークウォークは、「ウン・パ、ウン・パ」という2拍子のリズムが特徴的な黒人のダンス。万博でジャワ島のガムラン音楽に魅せられて、その音階で曲(〈塔〉)を書いてみてしまったミーハーなドビュッシーのことですから、アメリカ由来のちょっぴり粗野なダンスミュージ

          ワーグナーを嘲笑するゴリウォーグ

          ショパン16歳 ひと夏の恋

           ショパンの孫弟子のひとりに、ラウル・コチャルスキ(1885-1948、ポーランド)がいます。彼は、少年時代、ショパンの弟子で楽譜校訂者(ミクリ版)としても知られるカロル・ミクリ(1821-1897)のもとで、1892年から4年間教えを受けました。ミクリは7年間ショパンと密に交流し、直接のレッスンのみならず他の弟子へのレッスンも聴講を許されていた愛弟子。コチャルスキは、現在録音が残っているピアニストのなかで、ショパンの美学をもっとも濃厚に継承した、貴重な直系ピアニストと言えま

          ショパン16歳 ひと夏の恋

          11/19(土) 安井耕一さん ピアノ四重奏コンサート

          柏市在住のピアニスト安井耕一さん(元・国立音楽大学教授)が、ご子息のチェリスト総太郎さんら若い音楽家3名と、ピアノ四重奏の演奏会を開かれます。 わたしは一昨年初めてお聴きした安井さんの音色に心から憧れ、その奥義に触れるべく交流を重ねてきました。安井さんは空間に放たれた音の位相を自在に操り、響きが三次元で立ち現れます。彼の恩師コンラート・ハンゼンや、その師エドヴィン・フィッシャーが体現していた、気の遠くなるほど緻密な「音を創る技術」がそこにあります。 そして、安井さんの音楽

          11/19(土) 安井耕一さん ピアノ四重奏コンサート

          鶴澤奏さん ピアノリサイタル'22

          ソノリテからデビューアルバム「An die Musik」をリリースした鶴澤奏さんが、11月25日(金)に約1年ぶりの日本でのリサイタルをけやきホールにて開催します。 今年も素敵なプログラムを用意してくれました。チラシには、リサイタルに寄せた鶴澤さんの思いが裏面に記されています。 音楽と向き合うことは、作曲家の心の声に触れることであり、自分の魂の内側を見つめることでもある……これが鶴澤奏の音楽家としての信条です。今回のリサイタルに際し、またインタビューを敢行してみました(訊

          鶴澤奏さん ピアノリサイタル'22

          鶴澤奏 特別インタビュー

          バンクーバー在住のピアニスト鶴澤奏さんが、デビューCD「An die Musik - Kanade Tsurusawa Schubert Album」をソノリテからリリースします。中村香織さんによる美しいMVが完成しましたので、まずはこちらをご覧ください。 ディレクター/プロデューサーとして、こんな素敵な作品を皆さんにご紹介できることをとても幸せに感じています。 CDリリースを控え、鶴澤奏さんに、いま思うことを語ってもらいました。 (訊き手:ソノリテ 内藤 晃) コロナ

          鶴澤奏 特別インタビュー

          神谷悠生、デビュー

          神谷悠生君のデビュー盤「RAVEL & FALLA」が完成し、リリースを待つばかりとなった。 神谷君とはかれこれ長い付き合いになる。お母様が耳の肥えた人で、CDショップの試聴機か何かで僕のデビュー盤を聴き、当時中学生だった彼をうちに連れてきたのである。しばらくレッスンのような感じで音楽づくりの手伝いをした。僕もまだ学生で指導経験が浅く、お世辞にもいいレッスンと呼べる代物ではなかったかもしれない。 彼は高校から桐朋に進んだ。いつ頃からか定かではないが、彼の中で探究心が開花し

          神谷悠生、デビュー

          鶴澤奏さんのシューベルト

          ソノリテ新譜第2弾として、鶴澤奏さんのシューベルト・アルバムを録り終えました。 貴重な音楽仲間の一人である彼女は、ほんとうにナチュラルに音楽に溶け込む人で、純度の高い音楽を奏でます。品のある潔いタッチが、シューベルトの親密な音楽と深く共振します。 音楽に対する謙虚さが、凛とした透徹性をもたらしています。演奏の一回性が強いため、編集を最小限にとどめ、通しで素敵なテイクを録るよう心がけました。 レコーディング・チームは前作「Rebirth/大内暢仁」と同様の心強いメンバー。

          鶴澤奏さんのシューベルト

          クララ・シューマンの弟子たち

          音楽之友社から、ブラームス演奏にかんする論文集「ブラームスを演奏する」の邦訳が出た。 ​自分は曽我大介先生に勧められ、ベーレンライター社の原書で読んでいたが、初めて読んだ時は衝撃を受けたものだ。クララ・シューマン門下のピアニストたちにブラームスがレッスンをし、その人たちの録音が残っているとは!作曲家に直接指導を受けた人たちの録音を聴くと、その作曲家特有の音楽観や美意識が朧げに見えてくるのである。 ブラームスはクララ・シューマンの弟子たちに大いに興味を示し、自分の曲の勉強で

          クララ・シューマンの弟子たち

          レコーディングの裏側

          突然ですが、新レーベルsonoritéを立ち上げ、CDのプロデュースを始めます。 記念すべき第一号は、ピアニスト大内暢仁氏のバロック・アルバム。バッハ以前の北ドイツのバロック音楽を愛し、ブクステフーデやラインケンを、あえてモダンピアノで弾いている変人。僕はこういう変人が大好きです。演奏も深い研究と愛がにじみ出ていて共感します。 たとえばバッハの作品は、書かれた音楽そのものが普遍的にすばらしいから、チェンバロやクラヴィコードで弾いても、現代ピアノで弾いても、そこに宿っている

          レコーディングの裏側

          レッスンでのZOOM活用法

          この災禍のなかで、やむを得ずビデオ通話アプリを利用したリモートレッスン…細かいニュアンスが伝わらず、ストレスを溜めていらっしゃる先生方も多くいらっしゃると思います。 今日は、ピアノのレッスンでの、僕のZOOM活用法をお話しします。と言っても、いかにましな音質でZOOMレッスンをするか、というお話ではありません。いくら良い機材を揃えても音質には限界があり、生徒さん側に高いマイクを買っていただくのも非現実的なので、僕は、通常のようなリアルタイムのレッスンをオンラインでやることを

          レッスンでのZOOM活用法

          亭主関白になれなかったシューマン

           ピアニストとしてすでに名声を得ていたクララと、新進の音楽評論家として雑誌《音楽新報》を創刊したローベルトは、いわゆる「格差婚」カップルだった。恋人時代から、手紙でこんなやりとりをしている。 わたしも将来のことをよく考えてみました。(…)あなたとごいっしょに生活できたら幸せなのです。でも心配をせずに生活したいのです。(…)ローベルト、あなたが心配ない生活を維持できる状態にあるかどうか考えてみてほしいのです。(1837年11月24日 クララ) きみのお父様の霊がきみの背後に

          亭主関白になれなかったシューマン

          ピアニスト解剖(2)ジェラルド・ムーア

          ジェラルド・ムーア(1899-1987)。フィッシャー=ディースカウやシュヴァルツコップなど名だたる歌手たちから絶大な信頼を勝ち得てきた、歌曲伴奏のスペシャリスト。彼のソリストの色にカメレオンのごとく寄り添うピアノはあまりにも自然で絶妙で、わたしも尊敬してやまない。 彼は、その仕事に職人的な誇りをもった「闘士」だった。フィッシャー=ディースカウはこう言っている。 ジェラルド・ムーアは(…)伴奏者の人柄は控え目すぎるほど控え目で、できるだけ目立たないでいる「ピアノの紳士」だ

          ピアニスト解剖(2)ジェラルド・ムーア