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What is "Sincerity"?

Milton Nascimento e Lô Borges "Clube da Esquina" (1972 / EMI)

ミルトン・ナシメントロー・ボルジェスの『Clube da Esquina(クルービ・ダ・エスキーナ)』(日本では『街角クラブ』という老人のレクリエーションサークルのような直訳の邦題が付いている)は、MPBを代表する名盤のひとつ。今年でめでたくリリースから50周年を迎えた。

ジャケットにはふたりの男の子───同じような身なりで、同じくらい貧乏そうな白人の子と黒人の子が道端に腰かけている。はにかんだような笑顔を浮かべる白人の子ども。黒人の子どもはやや訝しそうな表情で、レンズを見据えている。

ミルトン・ナシメントとロー・ボルジェスの幼い頃の写真だと思い込んでいる人も多い(実はぼくもそうだった)が、ミルトンのジャケットを数多く手掛けた写真家のカフィ(Cafi)の作品で、彼がリオ郊外をドライブ中に偶然、撮影したストリートスナップだった。

被写体である子どもたちの姿は、ミルトンとボルジェスのコラボレーションをイメージさせるだけでなく、多様な民族構成と凄まじい格差を抱えるブラジル社会の縮図を二重写したイメージとして捉えることが出来る。

さて、リリースから40年が経った2012年、大人になった彼らをアナ・クララ・ブラントという女性ジャーナリストが探し出すことに成功した。当時、ぼくもどこかのウェブメディアに転載されたこの記事を読んだ。

左に写っている白人の子の名前はトーニョ、撮影されたときは7歳だった。黒人の子のほうはカカウで、当時8歳。ふたりの両親が同じ牧場で働いていて、小さい頃から兄弟のように育った。20歳のとき、両家族は離れ離れになり、トーニョは食料品店に勤務し、カカウは庭師になった。

自分の写真がレコードジャケットに使われていることを、トーニョはアナに会うまで知らなかった。「洪水で家族のアルバムが流されてしまい、子供の頃の写真が手元に1枚も無かったから、母がとても喜んでたよ」とトーニョは語っている。カカウは青年になってから、レコード屋の店先で発見していたらしい。LPは入手困難だったので、彼はCDを買った。

そして、彼らは求めに応じて、同じような風景の場所に腰掛け、写真を再現してみせた。

で、ぼくが知っていたのはここまで───問題はこの先だ。

実は、トーニョとカカウはこの取材から数ヶ月後、ミルトン、ルー、カフィ、レコード会社を相手執って、肖像権の無断使用で訴えた。裁判で求めたのは50万レアル、日本円で約1,400万円の賠償金だった。

今回、ぼくが探し出すことができたこの裁判に関するもっとも新しいニュースは2020年のものだが、アーティストもレコード会社も(カフィは2009年に逝去)、自分たちの非は認めつつ、肖像権の時効を盾にして、誰がどう最終責任を取るべきか、それを押し付けあっているようだ。そして、裁判はまだ決着していない。

Vampire Weekend "Contra"(2010)

レコードジャケットと被写体のあいだで起きた問題といえば、ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』に関する騒動が記憶に新しい。また、2010年には、ヴァンパイア・ウィークエンドがセカンドアルバム『Contra』の被写体になった女性から無断使用で提訴されている。このポラロイド写真はそもそもモデル志望だった彼女の宣材として撮られた。それをたまたまメンバーがネットで見つけて、写真家に許可を求めた。写真家は「モデルと話はついている。使用するのに問題はない」とバンド側に説明していたそうだ。

その後、バンドやレコード会社と女性のあいだで和解が成立したが、撮影の経緯について虚偽の説明をしていた、という理由から、ヴァンパイア・ウィークエンド側が写真家に対して、責任を問う裁判を起こした。

実は、ぼくも以前、自分の作品の無断使用が発覚し、ある大きな会社に抗議したことがある。相手側はすぐ責任を認めて、謝罪してくれたが、こちらに支払うべき金額を一銭でも下げようと躍起だった。

向こうは超一流の会社の法務部、こっちは個人。交渉すればするほど、みるみる自分の魂がすり減っていくのがわかった。最終的に自力で解決するのをあきらめ、著作権問題に強い弁護士に協力してもらい、なんとか妥協点を見いだせたのだが、その疲労度は尋常じゃなかった。

トーニョとカカウのふたりも「写真を使ってもらう分にはかまわないよ」と言っている。しかし、アーティスト側からなんの接触も無いという。「長年、勝手にレコードを売っといて、あんまりだよ。俺はとても貧しい。6人の子を育てなきゃならないし。ちょっとした金でも払おう、と、なんで思いつかなかったのか、はなはだ疑問だね」とトーニョは語る。つまり『北の国から』風に云えば「誠意って何かね?」ということだ。

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水本アキラ
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