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THINK TWICE 20210509-0515

5月10日(月) THINK TWICE RADIO 17

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THINK TWICE RADIO VOL.17 - ノンストップ!で棚からわしづかみ
TALK & MUSIC SELECT BY AKIRA MIZUMOTO

[TRACK LIST]
Ralph Castelli - Mystery
vern matz -Funny Water
Real Estate - In the Garden
Kirk Francis - Ophelia
Tati Falco- Selva y Mar
Dook Walt Jr - Night Time
Aseul - Bye Bye Summer
Echo Frame - Belladonna
Redspencer- All I Do
Pomo - Walking feat. Knox Fortune
Dante Elephante- Game of Love
Chanceyland & Thad Kopec- Orpheus

前半6曲と後半6曲をそれぞれノンストップミックスしました。
気になったアーティストは各自調査でお願いします。

次回はまた新譜特集。


5月12日(水) VIVA HATE

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先日、アメリカで放送された『ザ・シンプソンズ』のエピソード「Panic On The Streets of Springfield」に登場した、どこからどう見てもモリッシーそっくりの"Quilloughby"。

80年代に活動していたイギリスのロックバンド"The Snuffs"にシンプソン家の娘リサ(菜食主義者)が、かぶれ、リードシンガーのQuilloughbyの熱狂的ファンになるんだけど、現在のQuilloughbyはというと、バリバリの移民排斥主義者で、肉食上等、ドレスシャツから太鼓腹が飛び出るような肥満体になっていた───というキャラにしたところ、モリッシーのマネージャーが「訴えてやる!」と大激怒。

パロディやジョークの対象にされた有名人の対応としては、むしろ歓迎したり、寛容的なスタンスを取ることがベスト。茶化されたセレブリティ本人が自分のキャラの声を担当───なんてケースもままあります。逆に、モリッシーのように本気で怒って得することなんてほとんどありません。*1

*1 ちなみにQuilloughby役をモリッシーに代わって(?)声優を引き受けたのは、あのベネディクト・カンバーバッジ。

しかし『ザ・シンプソンズ』の制作陣はモリッシー側からの脅しに怯むどころか、劇中歌として制作した「Everyone Is Horrid Except Me (And Possibly You)」をシングルとしてデジタルリリースしました。

Quilloughby & Lisa Simpson / Everyone Is Horrid Except Me (And Possibly You)

タイトルを訳すと《ぼく(とおそらくは君)以外の人たちみんなが怖ろしい》。曲調はザ・スミスとザ・キュアーを足して2で割った感じ。ギターソロはニュー・オーダー風ですね。

脚本を担当したティム・ロングはぼくと同じ1969年生まれで、今回の件について、ヴァラエティ誌のインタビューでこう語ってます。

「1986年の夏、ザ・スミスのThe Queen Is Deadツアーに行ったけど、どう控えめに言ってもぼくの人生を変えたよ。で、その後もMoz(モリッシーのニックネーム)のライヴは何度となく見た。いちばん最近は2018年にハリウッド・ボウルに行った。(『ザ・シンプソンズ』の)エグゼクティブ・プロデューサーのマット・セルマンもそこにいたんだけど、かつて、薄気味悪がられ、疎外されがちのティーンエイジャーだったぼくらにとって、音楽がどれほどの意味を持っていたか、あるいはまた、誰かの熱狂的なファンになるってことは、その人と一生涯かけて付き合うようなもので、そこにはたくさんの浮き沈みがあるよね……って話をした。今回のエピソードはその議論から生まれたものなんだ」

やや屈折した愛情を込めて作られた「ぼく(とおそらくは君)以外の人たちみんなが怖ろしい」という曲や、この「Panic On The Streets of Springfield」というエピソード。モリッシーも笑って許せばいいのに、と個人的には思います。 *2

*2 タイトルも、ザ・スミスの「Panic」という曲の歌詞のパロディ。

もし、ぼくが『ザ・シンプソンズ』の脚本家なら、YMOのパロディを作りたいね。愛情もたっぷりあるし、ガンガンにいじる自信あり(笑)。


5月13日(木) KIRBY'S GOLD

もし、ぼくがYouTuberになるなら、この番組をまるごとパクりたいです。


5月14日(金) AFTER DARK

ハード・バップ時代を代表するトロンボーン奏者、カーティス・フラーが8日に出身地であるデトロイトの老人ホームで亡くなったそうです。享年86歳でした。

村上春樹の小説『アフターダーク』の登場人物《高橋》がトロンボーン吹きで、そのきっかけがフラーだった……という設定になっています。

「中学生のときに、中古レコード屋で『ブルースエット』っていうジャズのレコードをたまたま買ったんだよ。古い古いLP。どうしてそんなもの買ったのかなあ。思い出せない。ジャズなんてそれまで聴いたこともなかったからさ。でもとにかく、A面の一曲めに『ファイブスポット・アフターダーク』っていう曲が入っていて、これがひしひしといいんだ。トロンボーンを吹いてるのがカーティス・フラーだ。初めて聴いたとき、両方の目からうろこがぼろぼろ落ちるような気がしたね。そうだ、これが僕の楽器だって思った。僕とトロンボーン。運命の出会い」(村上春樹『アフターダーク』)

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『ブルースエット』は1959年5月の録音、1960年2月に発売された彼のアルバム。フラーは当時24歳。メンバーはピアノがトミー・フラナガン、ベースがジミー・ギャリソン、ドラムがアル・ヘアウッド。そして、この「ファイブスポット・アフターダーク」を作曲した、テナーサックス奏者のベニー・ゴルソンです。

ベニー・ゴルソンといえば、スティーヴン・スピルバーグの映画『ターミナル』を思い出さずにはいられません。

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これは『エスクワイア』誌に雇われた写真家のアート・ケインが撮影した一枚の写真。1958年8月12日、57人のジャズミュージシャンがハーレムの一角に集められたもので、"A Great Day in Harlem"というタイトルが付けられています。

映画『ターミナル』で、トム・ハンクス演じる男は、この写真に導かれてアメリカにやってくるという設定になっていました。

父親が熱狂的なジャズファンで、"A Great Day in Harlem"に載っている57人のサインを収集し、あとひとりというところで亡くなってしまう。

父の意志を継いで、残ったひとりのサインをもらうためにJFKに到着したところ、飛行機に乗ってる間に母国で軍事クーデターが発生し、持っていたパスポートもビザも失効してしまうんですね。

まあ、そこから艱難辛苦&ほっこりした出来事などいろいろあって(笑)なんとか入国し、サインを貰うことに成功するんだけど、そのミュージシャンこそがベニー・ゴルソンなんです。

ちなみにゴルソンは現在92歳で存命です。さっきの写真のモデルになった57人のミュージシャンのなかで、生きているのはゴルソンと、90歳のソニー・ロリンズのたったふたりのみ。偶然にもふたりともテナー奏者ですね。

ぜんぜんフラーの話にならないのは彼のアルバムは2枚しかちゃんと聴いたことないんですよね───その2枚はもちろん『ブルースウェット』と、彼のデビューアルバム『ニュー・トロンボーン』。チャーリー・バードの演奏で有名な、コール・ポーター作のスタンダード「恋とは何でしょう」は、古今東西いろんな人が取り上げていますが、ぼくはこのフラーのヴァージョンが一番好きです。ジャケットもかっこいい。


5月15日(土) HAPPY BIRTHDAY, MR. ENO

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<PLAYLIST>
1 - Brian Eno / Windows 95 Startup Sound
2 - Brian Eno / Needles in the Camel's Eye(1974年・Here Come The Warm Jets)
3 - Devo / (I Can't Get No) Satisfaction
4 - Coldplay / Viva La Vida
5 - Brian Eno & John Cale / Empty Frame(1990年・Wrong Way Up)
6 - Brian Eno & Akira Mizumoto / By This River

今日、番組で話したことの要約は───イーノはそもそも自分のことを《ノン・ミュージシャン》(=非音楽家)だと見なしていた、と。

たとえばジョン・レノンのように、美術学校出身の音楽家はイーノ以前にももいたけれど、ジョンには明らかにミュージシャンシップというか、音楽家としての野心───煎じ詰めれば、音楽で世界を変えたい、という意志があったと思う。しかし、イーノは音楽に限定せず、ビジュアル、言語、コンピューター言語などを含めて、さまざまなアプローチで社会にコミットメントしてきた、ということ。

それゆえ、既存の音楽家が作った音楽とはまったく違う風合いをもたらし、ニューウェイブやテクノなど、彼のあとに続いた《ノン・ミュージシャン》たちに大きな指針をもたらしました。

また、イーノは音楽を作るだけでなく、レーベル運営やプロデュースなどで、埋もれている才能が世に出る手助けをし、U2やコールドプレイのような世界中で何千万枚もアルバムを売るようなアーティストから、世界に何十人しかファンがいないようなアンダーグラウンドな人まで、たえず目を配ってきたのです。

そして、環境音楽やアンビエント・ミュージック、あるいはWindowsの起動音、アプリケーションの開発、占いのようなゲーム『オブリック・ストラテジーズ』など、ビル・ゲイツがWindowsを、スティーブ・ジョブズがiPhoneを生み出したようなレベルで、社会全体の仕組みや人間の意識を変えるようなアイディアをイーノは届けてくれます。

◎ローリング・ストーンマガジン《ブライアン・イーノが語る、ポストコロナ社会への提言とこれからの音楽体験》

番組中で引用したインタビューはこれ。で、イーノも参加している最新プロジェクト《プレイリスツ・フォー・アース》の紹介記事はこちら。

ぼくの出演している番組はこちら。愛媛県外の方はラジコプレミアムにご加入の上、お聞きください。


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