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喪の作業

取り戻せぬ過去

 新海誠の映画『すずめの戸締まり』は『君の名は』や『天気の子』といったこの監督の過去の作品のテーマを反復しているが、大きな違いがある。『君の名は』や『天気の子』は生者の危機を救う物語だったが、『すずめの戸締まり』は死者をとむらう作品なのだ。『すずめの戸締まり』の後半で再現される震災はすでに起きてしまった過去の出来事であるがゆえに、すずめや草太という特別な力を用いることのできる主人公たちであっても、時を巻き戻すことはできない。死者を甦らせることはできない。生き残った者にできるのは、死者をいたむことだけなのだ。
 この映画が一種の葬儀であることは、監督自身が意識していることでもある。映画館で観客に配布されたパンフレット『新海誠本』のインタビューで、監督は次のように語っている。

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