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罠の中の地味に怒る #毎週ショートショートnote

妻とフレンチの店にいたら明りが消えた。「なんだ停電か」突然祝杯マーチが鳴り明りが点いた。給仕、周りの客、全員がそれに合わせて踊りだした。サプライズってやつか。めんどくせぇ。舌打ちし目の前の妻を見た。薄っすら笑っている。

給仕が俺を羽交い絞めにし左手の指輪を抜き取った。妻も指輪を抜いた。二つの指輪が金の台に置かれる。そしてリボンの巻かれた金槌で一打。指輪はぺちゃんこになった。「どういうことだ」泡を飛ばし妻に訴えると薄笑いを保ったまま薄緑の紙を差し出した。半分が埋まっている。

おかしいと思った。もう殆ど会話もない君が食事に誘うなんて。罠の中の俺。離婚式か。俺は地味に怒ったりしない。望むところだ。給仕がきてペンを差し出した。それでもう半分を埋めた。だが書いたあと楽しかった思い出が蘇る。まだ引き返せないか。

「印鑑は家にある。押すまで待ってくれ」
「馬鹿ね。今は押印は任意なのよ」

薄笑いのまま離婚届を掴むと妻は踊っている客と一緒に店を出て行った。


(420文字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。