イケメン月餅② #毎週ショートショートnote
555蓬莱が読売ファミリーに広告を出した。「コンテスト開催、レシピ募る!優勝者には20万円進呈及び当店の新メニューと致します」全国から応募が殺到し最終に残ったのが5人。うち1人の書類を見ながら審査員が言った。「月餅か…。作るのがちょっと面倒なんだよな。餡まんかゴマ団子の方がいいんだけど」
「この応募者はパフォーマンスと併せてのオリジナルレシピだとかで、これまで下選のパートのおばちゃんの前でダンスしながら月餅を作ったのだそうです」「ええ…めんどくさい奴やん」「で、おばちゃんの全員一致の猛プッシュで勝ち抜いてきた人物でして」
ドアが開き件の応募者が入ってきた。そこには細身の身体にほどよく筋肉の乗った、年の頃30前後と思しき輝くような美男子の姿があった。タンクトップから引き締まった筋肉が覗いている。奇行・DV疑惑のあった頃の伊勢谷友介に似ており何やら悪の華、エキセントリックな匂いをぷんぷん発散させている。その色香にやられた審査員のパートのおばちゃんが頬を染め口をあんぐりさせ持っていたボールペンを落とした。
「剣崎竜也と申します。よろしくお願い致します!」
体育会系の挨拶の後、スポーツバッグから薄力粉や重曹、あんこ等の月餅の材料とボウル等の器具を取り出し審査員が座っている長テーブルに置いた。「ええっ今作るの?」「はい、私のレシピはパフォーマンスも含めてですから」次いでスマホをテーブルに置いた。そこからMuseのI Blong To Youが流れてきた。どんな激しいダンスミュージックと思いきや意外な選曲だ。
剣崎はこのメロディに併せ身体をよじったりくねくねさせたりしながら月餅作りを開始した。曲に合わせ時折「ふんっ」「ハハン」「う~う~」とか叫びながら前衛的に踊りつつ、中盤の最高に甘いメロディの箇所は自ら歌い上げながら(英語はもちろんこの曲は中盤でフランス語になるのだがその発音も完璧であった)手は粉を練り続ける。激しく動きながらも月餅作りは着々と進んでゆく。剣崎の濃厚なフェロモンを蔵した汗と唾が生地にもあんこにも降りかかった。
生地が出来たようだ。剣崎は月餅の型を審査員の前に掲げ「これは特注で作らせた剣崎オリジナルのものです」と紹介しつつ月餅を型抜きした。何やら顔のようなものが彫られている。それから時間がないのでと言ってテーブルの下から既に焼きあがった月餅の盛られた皿を運び審査員の前に置いた。月餅の上には剣崎自身の似顔絵が浮かんでいた。
審査員5名は555蓬莱の社長・パートのおばちゃんの代表・中華の鉄人陳健一・料理研究家土井良晴・料理記者歴40年の岸田朝子の構成で成っている。月餅を食してみて普通のものと変わらないことに陳健一等のプロは難色を示したがパートのおばちゃんは甘い旋律と剣崎の1点の曇りもないパフォーマンスに既に目がハートになっており「もう剣崎さんの月餅しか考えられないッ」
驚くべきことに料理記者歴40年の岸田朝子でさえ何やら目がトロンとしている。剣崎の汗と唾の入った月餅を3個も食べ「おいしゅうございました」と合掌した。ははあ。甘甘ソングと甘甘の月餅と己の濃厚なフェロモン、これでおばちゃん連中の票を掴み昇ってきたのだな。社長は陳健一達の手前逡巡したがやっぱり話題作りが欲しい。彼の一声で剣崎の月餅を受賞とした。社長名付けて「イケメン月餅」。
ところが後日。剣崎竜也は実は戎橋筋商店街のご当地5人組アイドル・えびっ子のメンバーの1人と判明した。剣崎竜也としてはお菓子作りとダンスが好きで応募しただけなのだが、出来レースと非難されるのを恐れ社長はイケメン月餅の受賞は白紙とした。ただしえびっ子の所属会社と提携を結び現在555蓬莱の戎橋本店では毎日曜日12時から、月餅を作りながらのえびっ子のダンスパフォーマンスを店頭で披露している。
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たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
I Blong To Youが好きで長くなってしまいました。すみません。