ビール傘②/#毎週ショートショートnote
「ごちそうさまでした」
店を出た。営業時間短縮でまだ21時。店先の傘立てに新品のビニール傘が大量に入っており、傍に立つ男が持って帰るよう勧める。
「雨なんか降ってませんが?」
男はにこやかな顔で
「私共、地ビール専門店特注のビール傘でございます。僭越ながら名称を商標登録させて頂きました」
傘を開くと店名「銭家」の銭亀をあしらったロゴが印刷されている。
「普通に傘として使うのもよし、お帰りまでにご気分が悪くなった際にはひっくり返してこの中に吐瀉する事もできます。その後、川にでも投げ捨てればよござんす」
「いや川に捨てたらあかんやろ」
「昨今は頭のおかしな輩が普通に道を歩いております。彼らに絡まれた際には武器にもなります」
「なるほど」
「世情厳しい昨今、私共の店に御足を運んで頂いた御客様に、ほんのささやかな御返しでございます」
深くお辞儀する男を尻目に駅へ歩いた。
「やっぱ邪魔やな」
道を曲がると川が流れていた。すぐさま傘を投げ捨てた。
(410文字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。