140字小説/広
ジャンボで1億当たった。即ボロ1Rから1DKに引っ越した。運ぶのは机とPCと座布団だけ。買替えようと思ったが貧乏性が発動した。それに俺の手垢のついたこの机と尻の形に凹んだこの座布団でないと思考が働かないのだ。仕事は辞めた。だだっ広いリビングの隅の半径30cmで遊ぶここが俺の世界。
ていねいに掃除をしたリビングは今までより広く感じる。ルナがすり寄ってきた。瑤子さんは猫大丈夫なの? わからんが、置いていくしかないよ。アパートは駄目なんだろ。一人の時に連絡くれる? 彼の顔が一瞬、綻んだように見えた。あなたじゃなくてルナに逢いたいから。ふり向かず私はドアを閉めた。
町の広報誌に長年絵を描いてきた男性が老衰で死んだ。童画風のトラ猫で、河川のゴミ拾いをしたり祭で盆踊りをしたり。名前をニャンといった。ここ二十年は月一枚のパラパラ漫画になっており、溜めていた原稿が死後も五年ほど掲載された。徐々にニャンの背に羽がはえ、飛びたち、最終回誌面から消えた。
昔男ありけり。広隆寺のほとけこがるるあまりその頬にふれむとあやまちて指折りけり。みほとけ笑みたたへつつうづくまる男にかぶさりその唇うばひけり。くらき御堂に息ふたつよぢれあふ。風なく紅葉舞ひたまふ。あな、一番鶏啼きけり。ちとせへておもふひとまためぐり逢ひてこころかなしもうつしみ汝は