子供の頃の思い出が明かすあなた自身
今回は、アドラー心理学のライフスタイル分析について語ります。
幼少期の古い記憶を手がかりに、個人のライフスタイルの核である生きる目的を読み取り、その目的をよりよく生きる目的に変えていく。
それがライフスタイル分析です。
悩みや葛藤、生活上の問題の解消の他、よりよく生きるための技術です。
アドラー自身が挙げている事例を元に考えていきましょう。
ライフスタイルを分析する
こんにちは、キャリアコンサルタント 松川です。
ライフスタイル、ふだんでも、よく使われる言葉ですよね。
あなたにとって理想のライフスタイルは?という質問も見かけることはありますし、都会的なライフスタイル、ナチュラルなライフスタイル、快適なライフスタイル、コロナ以降の新生活様式、これもライフスタイルですよね。
生活の様式・営み方。また、人生観・価値観・習慣などを含めた個人の生き方。
生きざま。
昔、パフィの「これが私の生きる道」という歌が流行りましたが、ライフスタイルには、そのひとが持っている意志が表現されていることもありますね。
アドラー心理学でいうライフスタイルは、今話たようなことも含めて、その人の考え方、感じ方、振る舞い方、生理反応など、心だけでなく体のことも含みます。そのひとの全体的なイメージ、それがアドラー心理学のライフスタイルです。
悩みや葛藤、生活上の問題を解消する際、このライフスタイルを分析していくという方法があります。
アドラー自身が挙げている事例で考えていきましょう。
30歳男性の引っ込み思案を克服する
30歳の男性。彼には本当の意味で友達と呼べるひとがいません。社会に対して不信感を持っていて、人と一緒にいてもほとんど話さない。その理由を彼は、「特に話すことがないから」と言います。内気で、色白で、話すときには赤面することもある。つねに仕事で失敗するのを恐れ、失敗しないように日夜勉強に励んでいた。働きすぎで、過度のストレスを抱えていた。人と接触するときの自意識過剰、人前での過度な緊張。それが彼のライフスタイルです。
「彼は前に進みたいと思っているが、失敗を恐るあまり動けなくなっている。条件つきでしか前に進むことができず、できることならずっと家にいて、他者と関わりたくないと思っている」
「すべての態度や行動の基盤に「やりたい・・・・・・けれどもできない!」という感情がある」
そこからアドラーは次のように想像します。
彼は大きな劣等感を抱え、そのために自分を過小評価し、他者や新しい状況を自分の敵だと捉えている。彼にとって、世界は敵なのだと、アドラーは考えます。
では、なぜ、この男性はこのようなライフスタイルを持つにいたったのでしょうか?
その理由を探ぐるために、アドラー心理学では、幼少期の記憶を手がかりにします。この男性に幼少期の思い出を話してもらいます。彼が語ったのは母親に連れられて弟と一緒に買い物に出かけたというエピソードです。
雨が振り出し、母親はまず彼を抱き上げたが、弟が一緒だったことに気づくと、彼をおろして弟を抱き上げた。弟を抱き上げる母親を見て、彼は弟のほうが母親に愛されていると感じた。
このエピソードから、アドラーは、この男性が、いつでも自分以外のひとが大切にされるという思い込みを読み取ります。この思い込みは彼の人生のプロトタイプです。そうしてその後、25年近い間、彼はこの思い込みにあう事実ばかりに注目して、この思い込みを強めてきた。その思い込みを彼は信じて疑っていないために、彼はいつも緊張とストレスを抱えているのだと。
では、この男性の状態をよくするには、どうすればいいのでしょうか?
アドラーは、大切なのは、男性の劣等感を和らげることだと言っています。
このケースでは、「自分は誰にも大切にされない」という思い込みです。
自分を過小評価していることを納得してもらう、緊張しすぎという傾向を理解してもらう、そして、自分は誰にも大切にされないという思い込みのために、彼が最高の実力を発揮できていないということ、周囲に与える彼の印象を悪くさせているということを理解してもらう。
このように、ライフスタイル分析では、先ず相談に来られた方の現状を把握し、次に子どもの頃の記憶をさかのぼり、過去の記憶と、現在の行動の間にあるつながりを発見する作業を行います。そしてそのつながりから、そのひとが何を生きる目的としているかを読み取り、その目的を変えていくことで、悩みや葛藤、生活上の問題の解消を試みていきます。
アドラーが上げている別の事例を見てみましょう。
中年男性の家族へのパワハラ
年齢は46歳か47歳の中年男性。既婚者で、子どももいる。眠れないということでアドラーの診察を受けにきました。他人に対してとても厳しく、いつも自分が上に立とうとする性格で、家族に対しては特に威圧的に振る舞い、周りのひとはとても辛い思いをしていました。
アドラーが彼に子どものころの記憶を尋ねると、両親がケンカばかりしていたと彼は答えます。両親がいつも激しい言葉で罵り合っていたため、彼は父親も母親も怖がっていた。両親からは放置され、不潔な格好で学校に通っていた。
ある日、担任の先生が休みのため、代わりの先生がやってきた。この先生から彼は励ましの言葉をかけられます。彼にとっては初めての励ましの言葉でした。しかし、彼は人より遅れていると思っていたし、自分が優秀な生徒になれるとは信じられなかった。その劣等感に立ち向かい、彼は懸命に勉強した。昼夜問わず、一晩中起きて勉強をした。その結果、彼は、何かを達成するためには、一晩中起きていなければならないと信じるようになりました。
そして大人になり、人の上に立ちたいという欲求が、他者への態度、とりわけ家族への態度に現れてくるようになりました。
アドラーは、彼の性格を「過剰な劣等感を抱えているがゆえに、人の上に立ちたがる性格」とまとめています。自分に自信が持てない。自信のなさを隠すために、人を支配したいと考えるようになったといいます。
この過剰な劣等感を彼が持つようになったのは、両親がケンカばかりしていて、放置されて育ったことが原因です。両親とのつながりを感じられず、自身の無力だけを感じて彼は育ったのでしょう。何をやったところで、やる意味を感じられなかった。全く勉強していなかった。
反面、彼は、そういう状況を変えたいとも思っていたのでしょう。だからこそ、先生からの励ましの言葉を受け入れることができたのではないでしょうか。
父親や母親に感じる恐怖、それは支配されている者としての恐怖で、それをくつがえしたいとも感じていたのではないか。それが人の上に立ちたいという欲求へ結びついていったのではないか。
彼のライフスタイルから読み取れる、生きる目的は何か?
明らかに、人を支配すること、そして、かつて自分に恐怖を感じさせた両親と同じように彼自身が振舞うことです。
では、彼自身の不眠を解消し、彼の家族関係をより健全な関係へと変えていくにはどうすればいいのか?
前の事例と同じように、この事例でも、彼の劣等感を緩めることが大事でしょう。
彼がこれまでやってきたことの振り返りから自己肯定感を高めてもらい、かつて子どものころ両親に感じていた恐怖を、今は彼が家族に感じさせていることを理解してもらう。
今回のまとめ
ライフスタイル分析は、このように悩みや葛藤、生活上の問題を解消するために行うものですが、そのエッセンスは、よりよく生きるための技術です。
自信を強め、共同体感覚を高めることができれば、難しい問題への対処がよりしやすくなることが期待できます。
これは、実はNiziプロジェクトです。
物事は、それだけを見ているとなかなか、本質や意味といったものが見えてきません。
本質や意味を知ろうとしたとき、別の物事と比較することで、よりわかりやすくなる場合があります。
ライフスタイル分析は、子どもの頃の古い記憶をさかのぼることで、現在のライフスタイルを初期のライフスタイルと比較し、そこにつながりを見つけようとします。
比較することで、現在のライフスタイルがよりわかりやすくなると期待できるからです。
このライフスタイル分析は、現在、キャリアカウンセリングにも応用されています。
次回は、ライフスタイル分析を応用したキャリアカウンセリングについて、お話したいと思います。
それでは、また、次回、よろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?