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ウーバーイーツ、頼むたび泣ける。

「配達員が店舗に向かっています」

この通知が画面に表示された瞬間、なぜか胸の奥でじんわりとした安心感が広がる。
普段はあまり意識しないけど、「ああ、ちゃんと人がいるんだ」「誰かが自分のために動いてくれているんだ」と実感する。

「ウーバーイーツが頼むたびに、感動して泣けるんだよね」なんて口にすると驚かれる。

「え、なんで感動するん?」と聞かれる。
だって、自分のために誰かが時間を割き、寒い日も暑い日もバイクや自転車で走ってきてくれる。それってありがたいことやと思う。

堕落との戦い

アプリを開く前に「歩いて10分でマクドナルドがあるのに、お前今からアプリを使うんか?」という自問自答から始まる。

堕落さとの戦い。
10戦すれば9戦は堕落さの勝ち。

今日の気分はダブルチーズバーガー。ポテトもドリンクもLサイズにしてセットで頼もう。飲み物はコーラか、気持ちばかり健康志向の黒烏龍茶か。こうした些細な選択の時間すら楽しい。

一方で、少しだけ不安が頭をよぎる。
「もしかして受付を拒否されるかもしれない」。

過去に何かの形でブラックリストに載っていないか。配達員が全員忙しくて「配達員がいません」と通知が来るのではないか。勝手に期待して裏切られるのではないか。そんな根拠のない妄想が、注文ボタンを押す前に浮かんでくる。

運命の1タップ

しかし、もう口はマクドだ。
祈るような気持ちで購入ボタンを押す。
その瞬間、画面にはアニメーションが表示され、くるくると混ぜられるボウルのイラストが現れる。

「注文を準備中です」

その表示に思わずホッとする。
推しのライブチケットの抽選に申し込んだときの気持ちってこんなのかな。
「これで、注文が通った」と胸を撫で下ろす瞬間だ。

まだ見ぬ配達員を追いかける

しばらくすると、「配達員が向かっています」という文字が現れる。自分の画面に突如バイクのアイコンが登場する。まるで別の世界からタイムループして現れたようだ。きっとこれまでも同じ街ですれ違っていたはずなのに。

アイコンが少しずつ動き始める。まずはお店に向かっている。こうなると、もうスマホを手放せない。画面越しにある人の一日を追いかけている気分になる。

写真を見ると40歳くらいだろうか。フリーで働きながら、隙間時間にウーバーをしているのかもしれない。運動不足を解消するために、ついでに稼げれば一石二鳥だなんて思っているのだろうか。

そんな妄想を勝手に広げながら、画面に映る小さなバイクのアイコンを追いかける。
不思議と空腹を忘れ、彼の人生に思いを馳せてしまう。

「商品をピックアップしました」と表示されると、心の中で小さくガッツポーズをする。
これで確実に、ダブルチーズバーガーセットが配達員の手に渡った。

全然待ってない感の演出

バイクが少しずつ自宅に近づいてくる。
その間、腹は鳴り続け、心臓は高鳴る。

寒い夜には、つい「コーンスープでも差し入れしたら喜ばれるかな」と余計なことまで考えてしまう。注文の内容がダブルチーズバーガーひとつだとしても、なんだか特別な瞬間に感じる。

そうこうしているうちに、家の近くにバイクのアイコンが到着した。
住んでいるのはマンションの3階で、オートロック式の家だった。本当は窓を開けてベランダからその姿を確認したい。
でも「あの人、待ち遠しすぎてこっちみてるやん」とか思われたらどうしよう。恥ずかしい。
はやる気持ちを抑えて、インターホンの画面をずっと見ている。

「ピンポーン」

「来た!(そりゃくるやろ)」
と脳内で会話する。

でもすぐに出てはいけない。待っていた感が伝わるのが恥ずかしい。
ここで私は4秒待つことにしている。水回りの掃除でもやってたんかな?くらいの長すぎず短すぎない、絶妙な待ち時間を目指している。

心の中では「ありがとう!本当にありがとう!」と叫びながらオートロックを開錠する。

玄関前での攻防

オートロックを開けて配達員がマンション内に入ると、あとはただ待つだけ。でも、落ち着かなくてすぐに玄関へ向かう。

誰もいない3階の踊り場を、覗き穴から1人覗いている。お辞儀と会釈の中間みたいな姿勢で配達員を待っている。なんやこの格好。恥ずかしい。絶対誰かに見られたくない。

ドキドキが募る。あぁ、この感じ、何かに似てるなと思う。デートで待ち合わせをしている時だ。集合時間に遅れた彼女に「ゴメン!待ってた?」って言われて、「全然待ってないよ〜」って何食わぬ顔をしている時に似ている。本当はめっちゃ待っていたのに。

そんな事を考えているうちに、ヘルメットをかぶった配達員が階段を上がってきた。

「ピンポーン」

「来た!(そりゃくるやろ)」
と脳内で会話する。

でもすぐに出てはいけない。待っていた感が伝わるのが恥ずかしい。
ここで私は7秒待つことにしている。
本当は今すぐ扉を開けて「ようこそ!!」とハグをしたい気持ちだが、何食わぬ顔で扉を開ける。なんなら少し頭を掻きながら、「あ、ありがとうございま〜す」と気だるそうに商品を受けとる。

届けられたのは商品だけじゃない

商品を受け取り、「ありがとうございました」ともう一声かけてからドアをそっと閉める。

そして間髪入れず覗き穴に向かう。
配達員が完全に視界から消えるまで、覗き穴からその後ろ姿を見送る。心の中で「ありがとう!本当にありがとう!」と叫んでいる。

彼らが持つバッグの中には、これから別の人を喜ばせる料理が詰まっているのだ。そんな空想をすると、不思議な感動が胸に込み上げる。

見送りを終えて部屋に戻る。「ふぅ」と一息つきながら、ダブルチーズバーガーが届いたことを実感する。そしてウーバーイーツの便利さや、勝手な妄想を振り返るのだ。

たかがウーバー、されどウーバー。

誰かが自分のために走ってきてくれる。その事実を目の当たりにして感動する。

配達員が届けてくれたのは、食べ物だけじゃない。「自分のために誰かが働いてくれた」という温かさなんじゃないかと思う。

外が寒いことを言い訳にして、たまには堕落を選んでみるのも良いなと思った。
料理は少し冷めてしまったけれど、心はポカポカしたままだ。

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前田 彰
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