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しゃあないなあ

朝6時の山手線は満員だった。2019年に1年間東京で暮らしていたので、狭い土地に異常な数がいることは知っていたが、肌身で感じると引いた。腹ペコの若い大学生が、地元の食堂でいっぱい食べやとぎゅーぎゅーにご飯を持ってくれるのは嬉しいが、電車の箱の中に知らないおじさんと知らないおじさんに挟まれてぎゅーぎゅーになることは辛い。もう1人知らないおじさんが来て、ぷよぷよみたいに消えてなくなりたいと思った。

7時になりカフェに寄った。10時から予定があったのでそれまで時間を潰そうと思った。入店から30分でスーツのサラリーマンが7人、ヘッドホン大学生が2人、ノーマル服装with Mac book Airが2人だった。

8時半になり、ちょっと息抜きに散歩でもしようと思った。観光地に興味はないけど、日常の雰囲気には興味がある。渋谷の出勤時にみんなどんな顔やモチベーションなのか感じてみたいと思った。

まだ朝だというのに日差しが強く暑い日だった。
夏日だった。

渋谷の歩道橋を歩いていると、外国人に話しかけられた。
年齢は30代後半、身長は173センチくらい。生まれはきっとインド系、細身の黒パンツにグレーのバンドT。キャップもリュックも黒だった。

「ちょっとイイですか?」

手のひらの上にある260円(100円玉2枚。10円玉6枚)を見せながら言った。

「私、ホテル泊まりたい。でもお金ない。どうしたらいい?助けて?(英語)」と言っていた気がする。

あー、大変やなあと思いつつも、次の予定あるし、なんなら1人で物思いに老けながら歩きたいと思っていた。ちょっとめんどくさいなと思った。

「どうしたらいい??」

何度も聞いてくるから、内心知らんがなと思いながら「渋谷 あんしんすこやかセンター」とググったりした。

どうしよかな?と思った。

自分は全く英語を話せない。でも、ゲストハウスで働いたことがあるので、勢いとパッションで言葉は通じることは知っている。

でも「しゃあないなあ」と何かしてあげたいと思った。

「そこのヒカリエ、ええ人おるんちゃう?」とか「東京って地方民の集まりやから、案外冷たい人っておらんと思うねん」とか「中目黒のドンキホーテ行ったらエグザイルと会えるで」とかテキトーに言ってた。テキトーにいなしたら時間が解決してどこかに行くやろと思った。

でもずっとついてきた。
ドラクエとかポケモンのアレみたいにずっとついてきた。ニコイチのようだった。プリクラ入って「うちらニコイチ」って書いたろかと思った。

「しゃあないなあ」と諦めて、一緒に散歩することにした。
予定まで時間があるし、息抜きになるやろなと思った。

相変わらず「お金、お金」と言ってくるが「そうやなー、そうやなー」と否定も肯定もせずいなし続けた。

なんとなく切り捨てたくないなと思った。
めんどくさいけど、もしかしたら本当に困ってるのかもしれない。自分がセーヌ川のほとりでお金がなかったら、勇気を出して「お金ないねん。困ってるねん」と260円を見せながら声をかけるだろうと思った。

でもあまりにお金のことしか言わない姿をみて違和感を感じていた。
というか、次第にめんどくささが優ってきた。

試しに、「困った時は警察に。それがジャパニーズフェイマススタイル」と提案すると「いやいや、それはちゃいますやん(的なこと)」を言い始めた。

でも、警察に連れ込んで切り捨てるのは違うと思った。
もしかしたらお互いがウィンウィンになるような落とし所があるかもしれない。

「しゃあないなあ」
どうしようと考えながら渋谷を歩いた。

そうだ、スタバに行こう。

平日渋谷の朝、カフェのテラス席でまどろむ人は、きっと時間に余裕がある。そして英語も話せる人が確率的に多いはず。何より散歩して疲れたので休憩したかった。そんな安易な考えでスタバに行くことにした。

オッチャンに一杯コーヒー奢ってテラス席に陣取る。
相変わらず「お金がない」と小銭を見せてくる。スタバ奢ったんだからもういいだろと内心思った。が、次第に人間的可愛さを感じるようになってきた。

席について10分後。隣にデニムのホットパンツを履いた、絵に描いたように「時間に余裕があって英語が話せそうな」女性が座った。

「あの〜・・・」という口火だけを切ると、女性とオッチャンが話はじめた。何を行っているかはわからなかったが、260円の小銭を見せはじめたので大丈夫そうだと思った。

そして、しれっとその場を離れた。

友人によると、大都会東京の街で物乞いらしきことをしている人を見るらしい。ほんまに困ってる人もいるやろけど、怪しい人も混じってる。

「この人変なんです!!」と往年のコントのように突き出してもいいけれど、余裕があったら「変だな」と思うことに突っ込むのも悪くない。

困ったときはお互いさま。
勝手に繋いだ女性が「しゃあないなあ」と思ったかは知らないけど、対応してくれてありがとう。

また困ったときは、近くの警察、もしくはスタバのテラス席へ行くことにする。

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