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界のカケラ 〜53〜

 汗ばんだ手を太ももに擦り付け状況を把握しようとしたが、その動作さえもしているのかわからなくなっていた。初めての状況に私はどうしたら良いのだろうか。冷静になろうと努めてきたが、徐々に落ち着かなくなってきていた。

 「あ! お姉ちゃん!」

 急に聞こえた声はすぐにゆいちゃんの声だとわかった。

 しかし姿は見当たらない。今の状態では彼女は見えないのだろうか。今日だけで数回経験したことに当てはめただけなので、見えないかどうかは真実ではない。声が聞こえるということは近くにいるはずだ。辺りをもう一度見回してみることにした。

 「ゆいちゃん、どこにいるの?」

 声が届くかどうかもわからなかったが出してみた。心で語りかければ相手にも通じることも知っていたが、声を出すことに慣れているのでとっさに声が出たというのが正しい。声を出したら生野さんや市ヶ谷さんにも聞こえるリスクもあったが、この時は聞こえないだろうと確信していた。

 「お姉ちゃん、まだそっちには戻れないの。もう少しかかりそうだから先に声だけでも伝えようと思って」

 「そうなのね・・・ でも何をしているかは教えてくれる?」

 「そういえばまだ言ってなかったね。あの人に必要な人を探してて・・・
 でもまだ見つからなくて、いろんなところに行って探してるの」

 「必要な人? その人を探していたのね。彼とは色々と話しているけれど、そろそろ厳しくてね。なるべく早めに探してきてくれると嬉しいな。それまでは私も精一杯頑張ってみるから」

 「うん! 待たせててごめんね。あともう少しで見つかりそうだから」

 「わかった。ゆいちゃんも頑張って探してきてね!」

 「ありがとう! じゃあまた探しに行ってくるね」

 「いってらっしゃい」

 テレパシーとでもいうのだろうか。声だけでも届くことを初めて知った。距離は関係ないのだろうかと疑問に思ったが、とりあえずゆいちゃんの声を聞けたことで落ち着きを取り戻せた。まだ時間がかかりそうなことの他に、誰かを探していると言っていた。これからのやりとりの中で話に詰まったときに使えるかもしれない。その人が市ヶ谷さんの重要人物なのだろう。期待が持てそうだ。

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akira
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