界のカケラ 〜73〜
「ゆいちゃんとは、私にしか見えない、さっきの市ヶ谷さんのそばにいたような人影の存在です。どういうわけか今日急に見えるようになりました。私も不思議でしょうがないのですが、生野さんの先ほどの話の時も時々現れていました」
「四条さんにしか見えないのか・・・ それは残念だ。四条さんと同じように話してみたかったがしょうがない。今はどこにいるのだい?」
「今は深鈴さんを元の体に送り届けるために少し離れています。もし帰ってきたら伝えておきますね」
「ああ。頼みます。亡くなった妻と同じ名前だから気になってしまってな。私が知っているゆいとは違うことはわかっているのだが。つい期待をしていてな。よろしくお願いします」
「はい。わかりました」
私もなんとなく生野さんが知るゆいさんと私が知るゆいちゃんとは同じ人物だと感じている。ただ明確な理由がなく、もし会ったとしても先ほどの深鈴さんの話を引用すると、魂同士が決めてきたことでないと話せないようになっているようだし、ゆいちゃんはたとえ聞いたとしても答えたりしないだろう。そういうルールなのかは知らないが、きっと現世で生きている私たちに不用意に接点を持たせず、自分の人生を生きるための決まりごとのような気がしている。ただ、私は例えそうであっても生野さんに対して何かしてあげたい気持ちになっていた。
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