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界のカケラ 〜51〜

 市ヶ谷さんの様子を見るとまだ思い出している最中だ。記憶を辿る邪魔をしないように音を立てないようにしていた。相変わらず中庭には私たちだけだ。最初に生野さんと話を始めてから二時間くらい経とうとしているのにこの静けさは異様で気持ち悪くなってきた。しかし市ヶ谷さんの邪魔をされないように後一時間ほどは誰も来ないことを願っていた。

 生野さんに話をしたかったがやめておくことにした。この三人とも無言の時間は居心地が悪かったが、幸い空は雲ひとつない晴天だったので空を見上げることで気持ちが紛れた。

 そういえば、いつから空を見上げることがなくなったのだろう。最近ではいつだったかも記憶にない。気持ちに余裕がないときほど空を見ることがなくなるのだろうなと空の青さに懐かしさを感じていた。時折吹く桜の蕾を開かせるような暖かい風が頰に触るたびに優しい気持ちになった。

 青空と暖かい風に癒されていた数分間は私の心をすっきりさせていた。もうそろそろ記憶が見つかったと思い市ヶ谷さんの方を見ると、まだ市ヶ谷さんは両膝に頭がつきそうなくらい顔をおろし、記憶を遡らせている途中のような姿勢をしていた。まだ時間がかかりそうだと覚悟し、空をまた見上げた。

 「ゆいちゃんはまだかな・・・」

 私にしか見えない彼女を待っているが未だに戻ってこない。戻ってこないという表現は適切ではないが、こちらが必要になりそうなときは現れないようになっているのか、姿はまだ見えていない。あの子のことを少しは信じるようになったけれど、大人の私が見続けられる保証はない。実はすでに彼女は戻ってきていて私が気づいていないだけなのではないかと思い始めた。疑うとますます見られないような気がして疑わないようにしていたが、そろそろ不安になってきていた。

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