界のカケラ 〜125〜 エピローグ
あれから一ヶ月過ぎたが再発していない。
仕事にも順調に復帰し、一週間ずつ勤務時間を長くして、ようやく今日から通常勤務に戻る。
怪我をした日からの十二日間を私は忘れることはないだろう。
特に最後の二日間は信じられないことを信じるしかない経験をした。医者というよりも一人の人間として考えさせられるものであった。人の生死を扱う医師の仕事が命を救うこともあれば、命が救えない不可避のものが必ず存在していることを察するには十分であった。
それでも医療の進歩に付いていき、人を救う技術や知識を身に付けていくことに変わりはない。たとえ救えない命であっても、魂が望んだ死であってもやることは変わらない。
それは抗うというよりも医者の姿勢、強いては在り方だからだ。
常に最善を尽くすというのは当然であり、命に向き合うことである。しかしそれは患者だけでなく、その周りにいる人たちの魂が決めてきたことを支持するということでもあると思うようになった。
実力や知識はもちろんのこと、命を救う直観的なものがとっさに浮かぶ状況が少なからずあるのは、魂が決めてきたことを遂行させるために魂同士でやりとりしているのかもしれない。そう思っている医者が一人くらいはいても良いのかもしれない。
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