界のカケラ 〜62〜
「四条さん、徹くんはどんな様子ですか?」
深鈴さんの言葉で今やらなければいけないことにハッと気づき、すぐさま彼の方を見ながら伝えた。
「彼は今、子供の頃に心が戻ってしまって、あのように背中を丸めて縮こまっています」
「昔と変わらないな・・・ 昔も叱るとああやって背中を丸めて顔を見ようとしないんですよ」
「そういう時はどうしていたんですか?」
「何もしないですよ。そのうち体が痛くなって、こっちを見てきますから。その時に喜びそうなことを言ったり、飲み物をあげたり、おやつをあげたりすれば機嫌が良くなりますよ。なんせまだ子供ですからね」
「そんな単純なことでいいんですか?」
「ええ、昔はいつもそんな感じで対応してましたし、今もその癖が抜けていなければ同じことをしますよ。ああなってからどのくらい時間が経っていますか?」
「もうすぐ十五分くらいですかね」
「それならもうすぐこっち向きますよ。それがチャンスです」
そう言い切る深鈴さんに妙な安心感があった。彼と長く時間を過ごしただろう唯一の人がそう言うのだから、きっとそうなるだろう。面白そうなのでそうなるのかどうか静かにずっと様子を見ていた。
「・・・」
音をたてずに、そうっと丸めた背中と腕の間から覗き込むような姿勢でこちらを見ていた。
深鈴さんの言う通りだ。心が子供なら、行動も子供だ。このチャンスを逃す手はない。こちらには深鈴さんという彼の思い出の人がいる。これで反応しないことはないだろう。しかし気がかなりなことが二つだけある。もっとも大事なことだ。
「ねえ、ゆいちゃん。思ったんだけど、深鈴さんから市ヶ谷さんをは見えているけど、彼からは深鈴さんは見えるの?」
「見えるはずだよ。彼が深鈴さんのことを忘れていたとしても、無意識では覚えているから」
「そうなんだ。私の場合もそうだったの?」
「うーんとね、少し違うけど、大体は同じことかな」
「あ、あと深鈴さんって生まれ変わっているんだよね?」
「うん、そうだよ」
「深鈴さんの生まれ変わった体ってどうなっているの?」
「生きているよ。ただ魂を抜け出させるために起きている状態だとできないから、少しの間だけ寝てもらっているよ」
「それならいいんだけど」
「でも、あまり長くは肉体から離れていられないから、早めに戻してあげないといけないけどね」
「やっぱりそうなんだ。元の体に負担をかけないように早くしないとね」
「うん。お願いね。きっとこのことが終わったら彼と深鈴さんは会うことはないだろうけど」
「え? それってどういう・・・」
「今は彼と深鈴さんに集中して早く解決してあげて」
ゆいちゃんは初めて話を遮った。遮った理由はいろいろと考えられるが、とりあえず今はあの二人を引き合わせなければ。