界のカケラ 〜40〜
さっきの言葉が引っかかったままだが、このまま黙っていると変に不安にさせてしまうと思い、正直に返答をしようと思っていたが、最初の言葉がなぜか思うように声が出なかった。
「あ・・たっ・・・ています・・・
私は医者として充実しています。もっと患者さんを救いたいと思っていますが、入院してからは気持ちが落ちていました」
「そうだろうな・・・いつもの四条さんとは雰囲気が違っていたからな」
「そんなに違って見えましたか?」
「ああ。昔の私のようだったしな。だからそういうのには敏感なのだ。
話が少しそれてしまったが、病気とか怪我というのは本当の自分に戻すための体の反応なのかもしれないということだ。人間は脳が発達していく過程で生き残る方を最優先にしたがる。それは当然のことだが、それを理性で押さえつけて最優先にしたがるということが問題だと思っているよ。
つまり、生きていくのに必要だからという思いが、いつの間にか思い込みに変わり、そうでないといけないように他の考え方と行動を頑なに閉じてしまう。それしかないと思い込んでしまうのだ。他の可能性がたくさんあるというのにな。
だが本能というか、命というか、魂とでもいうのか、本来の自分、これも曖昧なのだが、素の自分を思い出させるために病気というものを自分で生み出して強制的に止めてしまうことがあるのではないかということだ。病気や怪我でなければいつまでも続けてしまうようになってしまっているからな。病気や怪我でなければ、自殺や自殺未遂をしてでも止めてしまうかもしれない。この先も生きるために逆のことをしてしまうように」
生野さんは続けざまにこう話した。
「生きるというのは本来の命、魂のままに行動していくことなのかもしれないな」
生野さん自身も自戒しているような、声のトーンを徐々に落としていくように呟いたことが、一つの真理なのかもしれない。