俺という病
山ちゃん：
靴下を何足もっているかって？
S子：
そう、パンツは５０枚なんでしょ
だったら靴下は？
山ちゃん：
夏冬合わせたら１００はあるよね
今ね、俺ん家
アリエールの詰め替え１８個ある
しばらく沈黙が流れ
S子：
この短い会話の中だけで
いくつか心の問題が浮き彫りになったね
S子は極力、物をためておくことをしない人
信じられないことに
何足も靴下を履ききっている
そんなS子の対極にいる俺は
時々、S子をドン引きさせてしまう
俺は、たくさんの強迫観念をしょって生きている
それはもともとそういう人間なのか
成長過程で養ったものなのか
その辺は分からないけれど
自分でも生きづらいだろうな、と思ってる
じゃあ、そうしなきゃいいでしょ
と単純に思われがちだけど
強迫観念は、そんな簡単なものじゃない
例えば、かためるテンプルが１０袋を下回ったら
前の晩から、明日買わなければならない
という強迫が頭から離れなくなる
当日の昼飯の時も
かためるテンプルのことを思い返し
ぜったいに忘れてはいけないリストに入れる
スーパーでトマトケチャップを
何気なく見かけたら
あれ？トマトケチャップの替え
あったっけ？
と、自分ん家の在庫を想起する
ただここで、俺は頭が良くないため
在庫管理がまったくできていない
つまり、トマトケチャップの替えが
あるかどうかが分からないのだ
(我ながらすごいバカだ)
そうなると、不安がよぎり
もしもなかったら困るから買っておこう
と、確かめもせず購入してしまう
そんなことをしてるから
只今、我が家にはケチャップの替えが２つ
マヨネーズが３つある
サラダ油に関しては４本もあった
あ、トマトケチャップ家にあったわぁ
買っちゃったよぉ
と、思いながらも
なぜか安心している
俺がいることに気づかされる
沢山あると、安心なのだ
災害の少ない街で有名な札幌市が
震度６の地震が起きた時
２日間、停電した
市民はスーパーに群がり
食品を奪い合うように買って
棚から商品が嘘のようになくなった
でも俺は、そんなことはしない
我が家には、俺一人なら１ヶ月
ゆうに暮らせる食品を蓄えているからだ
日本の塩漬け文化こそ
俺の安心を支えてくれているのだ
下から5年もの、4年もの、3年もの
2年もの、そして今年のものだ
梅ぼしは3年過ぎると
薬に変わると言われているらしい
時間とともに梅酢が上がって、これまた美味しい
水も10年保存水を2ℓのペットボトルで
20本用意しているから
電気がなくても米が毎日炊ける
停電になっても
いつもとなんら変わらない暮らしができるのだ
段々と積まれているのは、砂糖と塩
この他に、上白糖と製塩が20kgづつある
S子：
病よね
山ちゃん：
病なのよ、分かってる
それに加え、災害に対して
極端な恐怖心を抱いている俺
この感情が何をもたらすかというと
防災グッズを買いあさる
という行動に憑りつかせるのだ
昨年の正月、石川県の地震を知った時
身体が内側から破裂しそうな感覚に囚われ
石川県の友達にまっさきに連絡した
彼女の住む地区は、問題なかったようで
ホッと胸をなでおろしたのもつかの間
ハタと、意識が自分にかえった頃
果たして俺の家の防災は、大丈夫なのか？
と、頭の中で声が聴こえてくる
これで大丈夫、というゴールがない防災用品は
そろえだすとキリがない
今ある物をチェックし
充電できるものはし直して
さらに足りない何かを絞り出す
出来上がった避難用の防災リュックは
重さ15kgを超えていた
こんなんじゃ
非難所までたどり着けないじゃん
そうやって何日も悩み出来上がったのがコレ
父親が我が家に来た時
この頭につけるライトを見て
魚釣りにいいな、と持って帰ってしまった時は
死ぬかもしれない、と本気で考え
即座に同じものを購入した
ちなみに、この高性能なライトたちは
いまだに日の目を見ていない
S子：
同じものをよく買うよね
山ちゃん：
好きなものだからね
俺の病には、同じものをいくつか買う
という症状もある
たとえば
お気に入りのNorthfaceのジャンバーは
色違いで4種類持っている
家着に欠かせないジャージも
同じものを4着もっている
Northのジャンパーは、大人気シリーズで
毎年カラーリングを変えて発売するけど
あっという間に売り切れになること
ジャージはデザインがシーズンごとに変わるので
二度とこのジャージを買うことができなくなること
どちらも、なくなる、という
根底は、同じ恐怖心だ
S子：
病よね
山ちゃん：
病なのよ
俺という病
時にムダと言われるけれど
俺にとっては心の平穏を保つ
重要なファクターだ
S子にも、次にまた地震が起きたら
充電器を持って、真っ先にうちに来い
と、常々話している
そんな俺なのに
車のガソリンは、赤ランプが点くまで入れない
というとっ散らかった人間なのだ
病なのよ
スーパー巡礼が俺の日課なので
もちろん下見に向かった
何がこんなに人気なのか
この目で確認しなければならない
この倍以上の列があの先に続く
このおっさん白髪だけどふっさふさやん
普段、現金問屋(市内のスーパー)の
商品に目が慣れているせいか
イトーヨーカドーやこのロピアの商品を見ると
ここは異世界か！？
と、思ってしまう
色がぜんぜん違う
ブーメランってなんだ？
これは、再訪だな
これは安すぎる
隣にいたご夫婦が
お前のケツだなって話してて
俺が笑っちゃいましたら
奥様が、顔真っ赤にしてました
旦那、モラハラです！
この値段！
なのに誰も買わない（笑）
ごみの日が今日だった俺も
もちろん買わない
買ってほしーな（笑）
ロピアはコイツは売れないだろうと
気づいているようだ
一夜干しで食べたら美味いだろうね
さて、目の保養は終了
みんな４つも載せられる買い物カートに
わんさか商品詰めて買ってました
俺はというと
どこでも買える青端麗(発泡酒)と
サラダ油
サラダ油
昨日のカレーパンで使ってしまったので
1本減ったでしょ
しっかりストックしておかなきゃね
(ちなみに222円、これは買いでしょ)
安心しなきゃ
病なのよ
じゃーねー