人間は長期的視点を持てない。公共交通の課題から考えてみる。
バス・タクシーの運転手不足、電車の廃線、新幹線開業に伴う並行在来線の問題など、公共交通の課題は、人口の少子化、都市化と過疎化、といった背景に伴い維持管理がほぼ無理というエリアがたくさんできてきました。自分がよく見ている教育関連でも、小中学校や高校の統廃合に伴い、徒歩で通学できない子たちの足の確保もかなりの負担になっていますし、それが原因で過疎化が加速化されています。さらに、トラック輸送等の物流の課題も出てきています。中長距離輸送で、大型・牽引免許を持って、体力のある労働者層も需要増のなか供給が追いつかないのが現状です。
長期的な視点を持てないと、まずは自覚する。
これらの課題については、そもそも人間は長期的な視点を持って行動していくことができないものだと言い切ってよいと思います。個人的な生活習慣も、仕事も、組織人としても、行政や政治の判断に至っても、ごく一部の活動を除いては短期的なものがほとんどです。例えば、健康に悪いことを知っていてついつい目先の誘惑に手を出してしまい、ジャンクフードや甘いものに手を出したり、睡眠不足に陥ったり、運動をはじめても三日坊主になったりと、意味を理解していても長期的な視点たって行動することは日々続かないものです。どうしても目先のものごとに陥りがちです。
少子化も過疎化も都市化も、ずっと前からわかっていたにも関わらず、退職した方々やお亡くなりになった世代の方々は、2020年代の現状についてイメージされずに、もしくはされていたけどほとんど触れずに仕事をされてきたのだと思います。人間は長期的には動けません。これは過去の人類の活動を検証してみて自明ですから、自然現象だと捉えてもいいと思います。
現役世代で世の中の意思決定を持っている人も、そういった長期的視点に気がついていたとしても、実行できるようなモチベーションや組織の意思決定体制にそもそもなっていないでしょう。できていたとしてもその割合は少ないはずです。現状の社会問題は先送りされ続けているわけです。ですから解決するためには、遠回りのようですけど、個々の生活や日常レベルでもいいので、長期的視点を持ってモチベーションを担保できる人を増やすしかないのが、根本的な解決の基礎づくりになると思います。
解決するための3つの視点
1)長期的で政策横断的な視点で、若い人たちが公共交通機関の担い手になりたいと思ってもらうためには、AIやテクノロジーによる自動運転技術への動きと近未来予測、運転手業界の職業の現状と課題への理解、この2つを同時に見せていくことが大事になります。これから先の職業がそもそもなくなる可能性の高いものに、若い人たちが参入してみようとはならないはずです。この手の議論や話題が全く出てきてないように思います。はっきり示すことをせず、議論を活性化させないで、あえて触れないという風潮があるとしたら、かなり危険です。
2)さらに、運転手という類の職業は高学歴な知識をあまり必要としないため、大学進学率が高い現状で考えると、高い授業料を払ってまでなる職業とはうつらないはずです。一般世間的に、大学まで出て運転手ですか?という社会の目線はあると思います。そもそも少子化で少ない若い世代にもかかわらず、進学率5割を超え、奨学金で借金を抱えている状態の人がかなりの人数になり、運転手を選ぶという人が少なくなるのは当然でしょう。ですから、政策的に高学歴層を増やすという国策がそもそも運転手不足を招いているのではないか、といった検証が必要です。
社会で必要とされる職業と、高等教育機関の設計や輩出人数のコントロールは大事な未来への設計です。そして未来を完璧に読み切れないでしょうから、予測を見誤った時の修正や改善の方策もセットで準備すべきです。これらの政策立案から実行にあたって、一部の業界団体の意見よりも、まずは客観的なデータに基づくAIテクノロジーを駆使してもらいたいところです。長期的な設計は、時間軸もさることながら様々な環境要因を予測まで駆使すべきですから、一部の業界団体の意見に集約すると近未来的で業界周辺事情まで判断してしまい、解決できない現状と変わりません。
3)次に、運転手の類の業界は賃金が高いわけではありません。一部は、労働環境も過酷な路線や仕事内容もあります。どれくらいの割合で過酷な環境なのかがわかりませんが、賃金が高くないと先に述べた奨学金を返済できません。なので、多くの大卒者を輩出してしまっている現状を考えると、彼らを新たな労働者になってもらいたいとなった場合、高等教育の学費について考え直さないとそもそも厳しいでしょう。この労働環境と賃金の話は、今現在色々と議論は出始めているようで、細かな改善はし始めているのかと推察しますが、その量とスピード感はきっと間に合ってないでしょう。
先日一部の国会議員がタクシードライバーの採用について地理の資格科目は不必要でないのではないか、といった指摘がありました。そもそもナビゲーションの技術進歩や利用普及したため地理の知識は必要ないとのこと。資格試験科目を減らすことはドライバー不足解消の一助になるのではないか。それは確かにそうなるでしょう。しかし根本解決にはかなり小さな改善であり、効果はそれほど大きくはないと思います。
学校教育で担うべきは、「探究の授業」
こういった長期目線で、課題解決への興味・関心を高めること。特に大人世代のマインドを切り替えて若い人たちに託すことになるでしょう。これらは既存の学校教育の教科科目や部活動といったシステム、現状の地域社会で育まれる要素はほぼないですから、新たに加わった新学習指導要領にある「探究の授業」等で突破口を切り開くことになるのではないかと思います。しかしながらこの「探究の授業」が学校の授業のなかにあるため、一部の教員以外、既存の考え方に固執している大人(教員)が担う現状ですから、解決するまでのスピード感は期待できないと思います。
ですから、長期的視座に富んだ教員が増えていくことや、教員以外で長期的視座のある人が学校に入っていくことを積極的に作り出していくことになると思います。
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