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「地域」を学ぶための3つの基盤づくり

今週は北海道道東地区を回っています。そのなかで話題になったこととして地域で学ぶカリキュラムのことに触れる機会がありました。ここ数年あまり「地域学」という名の学校設定科目がにわかに広がっています。その学校が立地している周辺地域を学ぶという科目は、そもそも小学校の3年生か4年生あたりに授業があります。自分の住んでいる周辺環境はどのようなものなのか。身近なものに見て触れてという分野は、少し歴史的なことにも含めて授業が各地で開発されています。小学生の時、NHK教育番組「たんけんぼくのまち」を見ながら、いろんなまちがあるのか、と記憶した人も多いでしょう。自分の地域と番組で取り上げた地域との比較も、番組を通してすることができました。

今回示している「地域学」とは、特に僻地や地方における高校の科目のことを指しています。その背景には「社会に開かれた教育課程」といったスローガンをうちだしてきたこと、少子化に伴う地方の小さな高校の存続問題、学習指導要領の改訂で「探究」科目の設定により「地域探究」といったカリキュラム開発がクローズアップされたり、といった背景があります。

この高校の授業を展開していくなかで、さまざまな課題が見えてきました。よく言われていることは、小学校でも中学校でも高校でも似たような授業になっていて、毎回同じことをしているため、生徒から見るとつまらないと感じるものがあることです。地方の小さな地区は、人や資源などがそもそも少ないため、子どもたちが訪問して見聞きするバリエーションが極端に少なく同じところに行かざるを得ないといった状況があります。さらに、教員自身がその地域の出身であることは稀で、全く縁もゆかりのない人がたまたま赴任するというケースが多くありますから、授業を作る側の教員も詳しくないわけです。

このような課題を乗り越えている地域はこの数年間余りでどれくらい伸びているのでしょうか。調査している人やデータがあればぜひ教えていただきたいと思います。高校と小学校の教員が地域を学ぶ教科で横断的な意見交換などしている仕組みがある場合は、まだまだ稀な状況でしょう。小中高とコミュニティスクールなどを経て、地域を学ぶカリキュラムに関わる連携が取れるようになると、ぐっと存在価値が高まってきます。

北海道標茶町役場

そして、たまたまその地域の学校に赴任したての教員向けに、自治体の教育委員会などが音頭をとって、その地域のことを学ぶような教員向け研修企画を立ち上げているところはどれくらいあるのでしょうか。今回訪問した自治体のなかで、北海道標茶町では赴任した教員向けの研修会が毎年企画されていると聞きました。このような仕組みを普及している地区の割合も気になるところです。

さらに追加事項として、高校進学で下宿生活などで移り住んでくる生徒にとっては、地元から進学してきた子らがかつて小学校時代に体験したものをほぼそのままのカリキュラムを踏襲した教材で十分であったりします。そうなると、地元から進学した子と、他方から進学してきた子ら(転校生なども当てはまる)で、どのように授業カリキュラムを組んだら良いのでしょうか。そのアレンジや選択科目化などの必要性が生まれます。

上記のような地域学における課題があるなかで、もっとも大きな壁は教員の人事異動のシステムとの相性が悪いことです。人事異動の目的やメリットから考えると人事異動そのものを取りやめることにはいきませんが、地域学の観点からマイナスに働くため工夫するシステムを作ることが必要になります。大きな自治体で教員がその地域社会内部でぐるぐる異動が収まるところは問題ないかもしれないですが、広域でする仕組みでないといけない地域は、カリキュラムの立案や実施運営、改訂や改善に至るなどノウハウを蓄積することが難しく、生徒にとって質をキープできないこともあるでしょう。

北海道標茶高校。日本で最も広い敷地面積を誇る高校。その広さは東京ドーム55個も入る。地域との関わりが広く展開されていることで知られている。

学校はもともと教育委員会所轄という行政的役割ですが、少子化対策など地域政策課題の一つとして考えていくことが増えてきており、その最先端の現場として「地域学」をどのように位置づけ、どのようにカリキュラムを実施していくのか。そのための基盤づくりを行う具体的な動きとして、①小中高の科目の中身を吟味しての連携や連動、②赴任した教員向けの研修機会、③進学で他地域からきた生徒と地元から進学してきた子に対して分けて形成する、この3つを揃えていくべきことだと感じます。このような仕事を担うべき人は、近年普及を急ぎ始めている「学校コーディネーター」の仕事分野になるだろうとも考えられます。


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