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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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ベイビーわるきゅーれナイスデイズの感想文


「ベイビーわるきゅーれ」との出会いの巻

1作目である「ベイビーわるきゅーれ」が劇場公開されたのは2021年7月30日。
記憶しているのは、当時なんか「女の子2人の殺し屋が出てくる映画ですごく面白いらしい」くらいの、本当にそんなふわっとした情報しか得ておらず、スルーもいいところだった。多分、予告編は観た気がするけれど、その程度で終わっていたと思う。
今となっては、この時にちゃんとこの作品を観ていれば……と後悔するばかりだけれど、過ぎてしまったことだ。

今年、2024年の6月ごろ。ようやくこの作品を観ることになった。

そう、映画館で公開された当時観なかったことを後悔したほど、面白かった。

今回は最新作の感想文にするため、深くは触れず、いずれ別の感想文として書こうと思っている。とにかく、その面白さに痺れ、この時点で続編が出ているものだから心が躍ったのであった。

シリーズが確立する「ベイビーわるきゅーれ2ベイビー」の巻

『なんて面白い映画だったんだ!しかも続編があるぜ!観たいぜ!』と思った僕は、当然すぐに「ベイビーわるきゅーれ2ベイビー」を探すだが、困ったことに気付いてしまう。
映画は公開が2023年3月24日であり、もちろん映画館ではやっていない。であれば、このサブスク時代で配信先を調べるも、実はこの時点ではまだ配信が始まっていなかった。なんてことだ。

しかしながら、もう心が、身体が、欲しているのである。
我に「ベイビーわるきゅーれ2ベイビー」を!ちさととまひろを!と。

それで、気付いたらAmazonでBDをポチっていた。(特典付きがあったので迷わずそちらを)

この時気付いたのだけれど、1作目のBDが品切れており高騰化していた。それくらい売れちゃっているのだ。ああ、やはりそうだ、僕は完全に出遅れている。

焦りながら届いたBDで「2ベイビー」を鑑賞する。

いやもう、面白すぎる。
これも別で感想文にするためあまり触れないけれど、1作目で下地が作り上げられ、2作目はしっかりそれを拡張していて本当に面白かった。敵として出てくる神村兄弟も良いキャラだった。

ああ、なんてシリーズに手を付けてしまったんだと思った。
この段階で3作目が公開されることは発表済みだったし、まだこの世界が続くことに既に幸福感を覚えている。
色々調べていたら、過去2作のパンフレットにはドラマCDも付属していて、ちさまひのやり取りが摂取できるらしいことが判明するものの、パンフレットなんて今更手に入らないし……と思っていたのだが、そのタイミングで通販での取り扱いが再開しており、即購入した。

1作目を鑑賞して2週間も経たずに、既に「ベビわる」関連で諭吉さんが1人(この時はまだ渋沢さんではない)飛んでいってしまった。この加速度はやばい気がする、と思いつつももう止まれない所まで来ていた。

そして始まるドラマ「ベイビーわるきゅーれエブリデイ!」の巻

ただでさえ、3作目があるということが嬉しいのに、ドラマ化もしてしまった。2024年9月4日スタート。このことが「ベビわる」がもう、口コミレベルで広がる規模ではなくなったものを意味している。ドラマがヒットして映画になるのは解る。だけれどこれは映画が先行し、ドラマシリーズになった。

これまでの作品を観ていれば3作目も面白いのは解るし、新規層を増やす趣旨で制作されるのではない気がした。

もっと観たいのだ、誰しもが。
「ベイビーわるきゅーれ」の世界を。

何を偉そうに言っているんだと思われるかもしれないが、わかるね!?ハマっている人は言っている意味汲んでくれるね?!というか、そうでなきゃ「エブリデイ!」なんてタイトル付けないよ。暴論である。

「ベビエブ」に関してはまだ放送中であり完結していないので書きようがない。
ただ放送分を観ていると、やっぱり、あの世界観を広げたくて撮られてるよなと思う。ちさまひ以外の殺し屋が出てきたり、殺し屋教会の話であったり、後半には粛清さんも出るようなので。掘り下げつつ、楽しませてくれる素晴らしいドラマ化。

これがあるからこそ、4作目もあるんじゃないかという期待も持てる。なんにしても、最終回まで観続けるだろう。

これだけ言っておきたいけれど、カルビイカは早くぬいぐるみ商品を出すべきだ!!

「ベイビーわるきゅーれナイスデイズ」を初日朝イチで鑑賞の巻

さて、ようやく本題に入る。
2024年9月27日に公開された「ベイビーわるきゅーれナイスデイズ」の感想文を書く。書かなければならない、という衝動にかられたと言ってもいい。とにかく、こちらの期待値をゆうに飛び越えて、ずっと思考の渦から抜け出せないような作品だった。
過去2作が積み重ねてきたもの、その先にある今作がどんなものであったかを思うところ全部書いていきたい。

できるだけ見出しに沿って書いていこうと思うのだけれど、読みづらい感想文ではあるかもしれないのでご容赦いただきたい。
それと例によってネタバレありで書いていくので、未見の人がこんなもの読まないと思うけれども、その点は注意してほしい。

というか、もし観てないなら「ナイスデイズ」からでもいいので観て。映画館で観て。

タイトルが出るまで

映画はタイトルを出すタイミングがとても大切だなと思う。
ベイビーわるきゅーれにおいてはしっかりこのタイミングは効果的に使われていて、一作目は緩い会話があっておでんをバックにじわーっと出てくる。これで「はいはい、この映画こんな感じね」が解る。
2作目の「2ベイビー」は神村兄弟が標的としてちさまひを認識し、ゆうりの「燃えるぜ」からタイトルロゴがドン!と出る。オープニングもある。

今作はこのタイトルが出るまでがかなり時間を要しており、入鹿みなみと七瀬りくが登場したところでやっと入る。つまり、バリバリのアクションが一通り終わってからだった。いよいよ、ここから後戻りはできないぜ、と言わんばかりのカットイン。イカすオープニング。

ゾクゾクするね!

冬村かえでという存在

まず冒頭で強烈な印象を残す冬村かえで。
予告で散々、『最強の殺し屋』であるとされていて、登場時からやべー奴というのが解るし、なんなら殺しを目撃した少年すらもあのまま撃ち殺すんじゃないかって空気だった。実際は殺さないし、差し出されたハンカチしっかり使うし、後にそういう単純な殺し屋という人物ではないのは判明するけど、とにかくこの観客側のファーストインパクトが強烈だった。

この冒頭に今回の敵が出てくる流れは、「2ベイビー」でもやっているのだけど、2の時は明確に神村兄弟がちさととまひろの座を狙うために来ることが分かっているし、何ならこの2人よりはちさまひの方が強いというのは薄ら解ることなので安心感があった。
ただこの冬村かえでの纏うヤバさは、これ遭遇しちゃダメなやつ感が凄くて、そういう意味でも今作はちょっと違うなというのが滲み出てた。

それが明確に解るのはちさととまひろと初遭遇した時。
ターゲットを抑えたまま、乱入してきた2人に対して「えっ」て言う反応。その後も一旦敬語で話してて(すぐキレ散らかすんだけど)、後の冬村かえでのバックボーンを知ると納得というか。この人、敵じゃない人には乱暴に接することが出来ないんだよね。だからどこまで行っても独りなんだけど。
逆に敵だと分かったら、邪魔だったら容赦なく殺せる感覚も持っているので悲しいことにその面では殺し屋向きだったわけで。

宮崎県庁での戦闘シーンはそれはもう、凄まじいアクション。というか、こんなにも早く対決することになると思ってなかったので初見はマジでドキドキした。
ターゲット優先するためにまひろがかえでを抑えておく展開になるけど、まぁえぐいアクションしますよね2人とも。なんであんな至近距離で銃撃戦して当たらんのよ。怖いよ。

中盤で冬村かえでの日記の内容がシーンとして挿入される。
これが結構、衝撃的。色んな意味で。

初期の頃は殺すことを正当化することを念頭においているように思う。
ターゲットはできるだけスマートに殺したい。だから半殺しみたいなのを嫌う(叫び声や恐怖に怯える声は聞きたくないから耳も塞ぐ)し、日記をつけることで反省点を見出している。ターゲットにわざわざゴブリンの被り物かぶせて撲殺し、相手がどんなやつでも、『おれは間違っていない、悪者を退治しただけ』と正当化する。でもこの時は辞めたいとも思ってるんだよな。
銃を初めて扱った時についても常に反省するべきところを書き出しているし、楽に殺せるようになってきてからは徐々に喜びを感じている。楽に殺せる、というのがポイントなんだと思う。

一方で残っていた人間らしさは完全になくさないまでも、少しずつ失われていく。
美味しそうだなって思って買ったお弁当にお箸が付いてなくても上手く言い出せず、結局は猫背になって指で食べる。しかもお店から絶妙な位置なのもまた良い。銃の知識、扱いに慣れていくなかでシチューを少し凝って作ってみる。最後にまひろに語っていたように、身の回りのものを綺麗にしてみることでギリギリの『人間らしさ』を保っている。日記も、かえでにとって大事なのはあれが記録であるのと同時に、自分が生きた証拠なんだろうな。
描かれてないけど、家に盗聴器を仕掛けてたなら誰も居ないことは解っただろうから、当然日記は取りに行けたかもしれない。そしたら人質のように持って行かれてたもんだから、駐車場で見つけたときに叫んだんだと思うな。

冒頭で少年に差し出されたハンカチを使うは人間性の証明のように思う。
主に白いものは白のままであってほしい、と思っている節もあって、意図されているかわからないけど、かえでがまひろに差し出す時は綺麗に洗濯されていて綺麗だった。(対比としてまひろはずっと汚れたまま使っている、まぁ洗濯する機会がないわけだけど)家に並んでいる3足ほどのスニーカーも真っ白だし(これもまひろに踏んづけられてる)、最終決戦前も靴を綺麗にしようとしている。
だから、最終的にまひろが差し出すハンカチはもう汚れているから受け取らなかったのかも、とも。

誰よりも仲間が欲しいと思っているのに、誰も信じていないのも冬村かえで。
広川は仕事の仲介人としか見てなくて、家が知られてるから盗聴器も仕掛けてたし、信用なんて出来ないからあっさり殺す。
そしてファームの連中に仲間のことを補填とか言うなって言われると、本気で戸惑うくらい「仲間」を解ってない。きっとかえでは少年漫画、特にONE PIECEが好きだったりして、だからこそ作中のセリフも飛び出しちゃうんだけど、単純に「強い奴には自然と仲間が増えていく」と思い込んでいて、それが現実ではそうはいかなくて漫画だけの話だよ、ということを理解できていない。だから「俺は強い!!お前たちに俺は殺せない、命が勿体無い!意味汲んでくれるね!?」なんて言っちゃう。こんなに悲しいことはないよ。もうそのあとのファームの人達との移動シーンもきついもの。結局その後誰とも組んでないし。どこまで行っても独りだ。

最期、まひろに撃たれたあと。
静かに死に向かっていく途中で、最期の視界に映っていたのは、誕生日パーティだあー!ってはしゃぐちさまひの姿。で、自分の誕生日を忘れていることに気付くかえで。
あんなに日記を付けていたのに、自分の誕生日を忘れるほど殺し屋という生き方に呪われてしまって、隣に誰も居ないかえでは誰からも誕生日は祝ってもらえない。

仮に最後の闘いに勝っていても、お誕生日バトルムービーとしては、最初から勝ちようがないのだ。

150人以上の命を奪いまくって、殺してきたかえでが、生まれてきた日のことを想って死んでいくのはとても皮肉で、哀しいシーンだった。

冬村かえでの公式誕生日が設定されていないので、まひろの反対で6月19日とかだったら面白いな。

いつものふたり

主役である杉本ちさと、深川まひろ。
冬村かえでの登場シーンとは対極で、海ではしゃぎまくっているシーンで始まる。はしゃぎまくるのに、すぐ疲れて帰りたくなってる。これはもう、ちさまひだからこその緩急。ここまできて僕含め「ああ、良かった、ベイビーわるきゅーれ始まった」と思ったに違いない。それくらい冬村かえでのシーンからの落差がすごい。

とにかくいつも通りなので安心。いきなり回想シーンで暴れまくっている2人が観れるのだけど、終わったあとで互いに血を拭きあってる所の会話とかもうこれぞベビわるである。
明確に伏線ってことではなかったと思うけど、ここでちさとがまひろに『男相手だったら相手の身体を利用してぐっと引き寄せろ』というアドバイスをしてて、まひろは話半分で聞いてるし多分使ってない気がするんだけど、これラストでちさとがかえでに頭突きするシーンで使ってるのかな。
(2024.12.4追記  明言されたので追記ですが、ここの台詞は最後のまひろの頭突きに掛かってました。使ってないわけじゃなかった!まひろが自分自身で掴んだ逆転激だと思ってたら、しっかりちさとと2人で掴んだ勝利でした!最高?最高か??)
あとまひろが最後のとどめでナイフぐりぐりやってんのは、1作目でもやってたな。あれは妄想だったけど。

最初の海で2人で乾杯してるシーンがあって、今作ラストにもあるんだけど、ベビわるシリーズ通して乾杯するシーンがあって、まひろがしっかり乾杯できるかどうかみたいな線引きがあるなぁと何となく。
1作目のメイド喫茶では輪に入れずタイミングも合わず、今作のラストでも乾杯の音頭はできず。でも、2作目のラストでは神村兄弟たちに「乾杯でもしますか(チュールで)」って振ってるし、ちさととだったら気兼ねなく乾杯ができる。つまり、完全に気を許せる人の中ではまひろは乾杯ができる。
といった、乾杯で見るベイビーわるきゅーれ

美容室で隣にしてもらってずっと話してようっていうまひろが可愛すぎるし、「はなしゃいいじゃん」って少し呆れながらも次のシーンでは話す練習してあげてるのも良いよ。でも仕事になったらきっちり切り替わるのも素敵。

まひろの誕生日忘れてたことに気付いたときのちさとが面白すぎるんだけど、まひろ役の伊澤彩織さんが身体を動かして表現するタイプなら、ちさと役の髙石あかりさんは顔で表現するタイプ。ベビエブの方でもすごいけど、まぁよく動きますよね。お顔が。

あと喫茶店でみなりくと4人で話してるシーンで、舌打ちした入鹿にキレるちさとが「確定、確定か?」ってグチグチ言ってたら横からまひろが「パチンコ行った?」って訊くの最高すぎる。この台詞だけで、2作目でちさとがギャンブルにハマって実はまだ抜けきれていないってのが解って素晴らしかったな。細かいやり取りが好きだ。

ホテルでフォーマルな2人になったあとも、会話はずっと相変わらずだし、ここでまさか宮内さんが登場するとは思わなかったな。しかも入鹿みなみと知り合いで気に入られていて、バチバチだったちさとからすると驚愕。この2人との差を作るのが上手い。まぁちさとは最初、宮内さんに対しても少し辛辣だったし、そこからも本来宮内さんも入鹿側ってのが解る。なので、宮内さんがマジですごいってとなんだけど。
そして名前すら忘れられている田坂さん
でもなんだろうな、この後ロビーで寝起きの田坂さんが出るシーン、不思議とちょっとカッコイイんだよな。なんだろう、彼もやっぱり1作目から出てるってこともあって、出ると「きたきた!」ってなるんだよね。しかもこの後車で助けに来るし、ちさとにアドバイス(通訳:宮内)もするしね。

エレベーターの中のバンドマンごっこ最高。バイブスでセトリ決めちゃうルビーとサファイア。もう少しやってて欲しかったな。

そう言えば作中に出てくる「モバイルバッテリー問題」ってなんだったんだろうって思ったんだけど、多分、「モバイルバッテリー自体を充電するの忘れがち」か「モバイルバッテリーそのものを忘れがち」か「モバイルバッテリーは持ってきたけど充電コードを忘れがち」のどれかだろうけど、まひろ的には充電を忘れてそう。
こういう◯◯問題とか、あるあるとか、ランキングとか話してるのが良いんだよ。

当然ながら最後までいつも通りのふたりで安心する。
場所が違っていても、それがどこでも、この2人がセットなら成立するのがベイビーわるきゅーれの強み。

入鹿みなみと七瀬りく

ちさまひコンビと共に行動することになる地方の殺し屋コンビ、入鹿みなみと七瀬りく。

正直、最初はちさまひ以外の殺し屋そんなに興味ないよ〜って思ってたんだけど……すみませんでした!
最高なんですよね、このコンビも。

入鹿みなみは最初からツンケンしてて特にちさととは全くウマが合わず、七瀬りくに至っては絶対に良い人なんだけど良い人すぎてどうしたらいいかわからないっていう。ずっと筋肉のこと言ってるし。
入鹿は仕事に大義を持ってるから、ちさまひの空気感が合わなくて終始イライラ。ちさともずっとどうやったら殺せるかみたいな話しかしないくらいイライラ。だけど、この2人が最終的には並んで闘ったときの爽快感があるのはこのぶつかり合いがあってこそ。

登場してすぐにチームとして動くんだけどこのキャラ立ちがすごいので、シーンのテンポを落としてないしとても良い化学反応だったなぁ。初登場でこんなに馴染むものかなってくらい。

田坂さんや宮内さんと知り合いだったというのもスッと入ってくる要素になってると思う。
初対面の人なんだけど、共通の知り合いが居ることが解って距離が縮まる感じね。

それとセリフの端々で、しっかりこの2人もコンビとしてやってきたというのが解るようになってるのもいい。入鹿があんたは力で突っ走るから銃も使えって七瀬に言ったり、入鹿のとんでもない過去をちさまひに打ち明ける時も七瀬が止めようとしたり。
というか、止めようとしてたってことは七瀬もそれなりに入鹿の過去については「他人に言わない方がいい」という認識はあるんだな。

まぁその過去がまさか『灰原哀に憧れてたらいつのまにか独りだった』って内容だとは思わなかったけど!
初見のとき、本当に「ハイバラアイ……ってなんか、聞いたことあるな、なんだっけな」って思ってたらちさとが「灰原哀……コナンの?」って言った時吹き出してしまった。それで合ってるのかよ。
そこで一気に、入鹿を見る目が変わるよね。完全にオタク拗らせ系の人なんだもの。

ここで1作目の「合格〜!」があったのもよかったんだけど(これは元をたどると前田敦子が出ている『もらとりあむタマ子』のオマージュらしいので使い方としては最高の場面)、その前に何かを話そうとしているのを察してちさとが入鹿に「(まひろの髪型)入鹿さんはどう思います?」って話を振るのが良い。間に入れてあげる。話しやすい環境を作ってあげる。ちさとはいつも空気を変えてくれる存在。
そしてこの時、ずっと遠くでプロテイン作りながらその場を見守っている七瀬もよくて。マジで良い人だな、この人。

このアジトの場面、田坂さんのぐちぐち口撃がいつもの2人にではなくて入鹿に向いてるのもいつもと違ってて新鮮だったな。今回に関しては、田坂さん的には先輩であるあんた達がしっかりしてくれよってことだったんだろうね。実際同期みたいなものっぽいし。

ところで七瀬りくさんは、相手をしっかり殺すにはやっぱり銃が必要ですわ的なことを車の中で言ってた気がするんだけど、最終的には4人相手に蹴りだけで勝ってて、あんたはもう銃じゃなくていいよと思った、身体はゾロなのに、技はサンジかよ。強すぎる。

入鹿は入鹿でちさまひと打ち解けたあとの戦闘がキリっとしてて良かった。和解するまでは弾除けになったらそれでいいとか、ちさまひの態度に終始イライラしっぱなしだったけど、こういうキャラってそのまま行くと嫌なやつになってしまうところを、やはりあの過去が一気に親近感湧くキャラに転身するのがすごいよね。
弾切れでピンチになったちさとを救うのが入鹿みなみであることが素晴らしい。息ぴったりで銃撃するし、これはこれで新たなコンビを見せられた感じ。いつか七瀬とまひろもゴリゴリのコンビネーション格闘も見せてほしいなぁ。

これまでのシリーズでは『ちさまひと敵』という構図だったので、こういうチーム戦が見れたことだけでもナイスデイズの価値がある。とても良いキャラクターが生まれたなって思います。

深川まひろと冬村かえで

やはり、この2人はとても似ている

インタビューなどで『冬村かえではちさとに出会わなかった世界線の深川まひろ』と明確に言われているので疑いようはないのだけど、それがなくても劇中の描かれ方だけで十分解るほど似ている。
似てるけれど、そこには圧倒的な差がある。

最初の戦闘でまひろがかえでを抑えることになるけど、この段階ではお互いの力量が測れていないからまひろは思ったように止められないことに苛立ち、かえでは思ったより食いついてくるまひろにきっと驚いた。なので、単純に振り切ることよりも一度戦闘不能にした方がいいという判断になったんだと思う。
まひろの渾身の頭突きを回避できたのは、単純な力量差だけではなくて、かえでも自分ならそうするという事だったんだろうな。
さっさとターゲットを追えばいいのにわざわざハンカチを差し出したのは、そこまで食らいついてきた初めての存在に興味を持ったからだったんじゃないだろうか。少年に差し出されたハンカチを受け取ったように、まひろもそのハンカチを受け取ってしまう。そこで自分と同じなんだ、とかえでは思う。

しかし、殺さなくても良い少年から差し出された優しさと、殺すべき相手に差し出された施しは受け取る意味が全然違う。
この段階で、まひろの隣にちさとが居るとかそういう差じゃなくて、似てるけど実はもう全然違っているという意味合いがあったと思う。実際、最後にかえでは返されたハンカチを受け取らない。施しは受けない。

劇中のことだけで考えると、日記をしっかり読んだのはまひろだけ(だと思う)。その日記を読んで、同じサンドバッグを叩き続けて、まひろはかえでとシンクロしていく。まひろもよくそうしているように、かえでも身体を動かすことで発散するものがあって、『今日は何もしない一日。筋トレをする』にどっちだよとツッコミながらも、そういう感覚は解っている。
理解できる部分があるから、余計に殺さなきゃとも思う。

ラストバトルで、この2人が似ているという部分がバチバチに火花を散らす。
かえでが笑いながら「あんた強さランキング1位、更新だよ」と語りながら、まひろが強いと思った相手のことが気になる。まひろは覚えてないと言いながら、楽しいと言われた神村兄弟を思い出して語る。似ているから、『強いと思う相手と闘うのは楽しい』という感覚が互いにある。
1作目のラストでも、まひろはボロボロになりつつ渡部を倒して最後は笑っていた。結果として楽しんでいた。強い奴をぶっ倒したという満足感と、強いやつと闘うことを楽しむ感覚は2作目でも神村ゆうりと闘っている時から滲み出ていた。
名前くらい聞いとけばよかったというまひろに、かえでは合わせるように名前を問う。間違いなく知っておきたいから。ここでまひろも冬村かえでの名前を知ってるのに、わざわざ「あんたは?」って訊くのも良い。
殺し屋の、というよりはこのとても似ている2人の間での礼儀のようで。

個人的に最高だったのは、仕切り直す際にまひろが拳を出すところ。
こうしたら、きっとかえでも乗ってくると思っていて、そのうえで先手を取るためにタッチ直前で手を掴む。流れるような読み合いだけど、ちゃんと思考が乗ってる動きでとてもよかった。その後またやり直すところも良い。
そしてこの乗ってくるだろう、という流れこそが最後の頭突きを囮にして膝をぶち込むところにつながっていて素晴らしかった。単にかえでが最強であったなら、このフェイントは使えない。でも、まひろはどこかでかえでを理解しているから、かえでは絶対に回避するという自信すらあったからしっかり決まる。ニヤリとした瞬間は本当にかっこいい。映画なのに、漫画のような表現だった。

決定打ではあったけど致命傷ではなかったことを考えると、この勝負に関してはかえでが『負けを認めた』んじゃないかと思う。
まひろより先に動き、座ることができたならその力でまひろの首を絞めても良かったはずだし、それこそ銃を取りに行くこともできたと思う。だけどそれをしなかったのは、あの一撃を決められたことがかえでにとっては敗北だったんだと。それでも銃を取りにこうと動き始めたのは、自分が殺し屋としてでしか生きられなかったから。殺し屋の自分を死なせるわけにはいかない、そういう意地やプライドが見えた。

まひろも、かえでが何かを悟っているから横に並んだし、プライドにしても理解している。
かえでへハンカチを返そうとしたのは、初戦のやり返しとかではなくまひろの『優しさ』だったんじゃないか。隣に誰か居ることに憧れていたかえでへの、その瞬間で唯一与えられるまひろの『優しさ』。
だけど、かえではそれを受け取らない。かえでにとっては『施し』だから。

まひろが「そうだよね」って言ったのは、施しを受けることを何より拒絶するだろうと思っていたというのもあるだろうけど、受け取って後悔したことを話す相手が居ないからということもあると思う。
隣に誰も居ない自分をきっとまひろは想像したし、それをかえでに見た。
まひろにはちさとという、施しを受けた〜って言える相手がいる。まだ死にたくないなと思える相手がいる。かえでにはそれがない。

互いにそっくりな、冬村かえでと深川まひろにはその差があった。
その差が、勝負の鍵だったんだろうと思う。

最強の殺し屋は、最高のふたりに負けた。

杉本ちさとと深川まひろ

改めてこの2人のこと。

1作目ではまだ2人で暮らし始めたばっかりで、割とぶつかることもあり、喧嘩もしてた。
2作目では生活に慣れてきた中で、身近な人も死ぬかもしれないと感じつつ、より絆を深めた。

そういう過程を経て、この2人は互いを信頼する度合いが格段に上がっている。一緒に生活してるってことは帰る家が同じってことで、この2人にはずっと「少し先の話」が当たり前になっている。髪を切る予約をしてたり、伊勢海老食べたいねって話をしたり。

冬村かえでの家で泊まることになって、テントの中で誕生日を迎えたまひろをお祝いするちさと。もちろん、それがちゃんとしたお祝いではないのだけどたまたま見つけたぬるい缶ビールで2人きりでお祝いしたことが大切で。
誰とも通ずることのなかった冬村かえでがずっと閉じこもっていたテントの中で、この2人が誕生日おめでと〜って言ってるの、中々心にくるシーンですよ。

約束事をするのは、互いに生きていることを当たり前としているからできること。
倒れているまひろをちさとが震える手で起こそうとしたのは、そんな当たり前が失われたかもしれなかったから。だから涙も出るんだと思う。杉本ちさと役の高石あかりさんが「ちさとは泣いていいのか」というところで悩んだという話があったけれど、ちさとの中ではまひろの存在はずっと一緒のものになってると思うので、自然なことだと思う。

まひろも、あの激闘のあとで、ちさとが死んだとは思っていない。だからこそ第一声が「ちさと、終わったよ」なんだと思う。返事がないから不安になったけど、まさかいなくなることは想像していない。

最後の戦いに入る前、先に死んだら待ってるから遊んでと言い出したまひろに対してちさとが怒ったのはそういうこと。ちさとが言う『もっとマシなこと』はそういう死ぬかもしれない少し先の話ではなく、2人共生きてて2人で叶えられる少し先のこと
だから手を傷付けてでもまひろのことは殺させない、それがちさとの覚悟。最初に戦った時に1人したことを後悔しているからこそできること。そして誕プレ代わりの頭突き!とうとう3作目にしてちさとが頭突きでリードする。過去の頭突きに関してはどちらもちさとは見てないんだけど、多分まひろから聞いたりしてるんだろうな。それで「いや無理だわー、頭割れるわーそんなんしたら」とか言ってそう。それでも渾身の頭突きをくりだしたちさと。この時のちさとの必死の形相がすごいよね。

闘いが終わったら手を握る。
手を握ることで互いがそこに居ることを確かめる。
2作目の時も、最終決戦に向かうまひろと手を握ったちさと。
かえでに負けた時も銃を取って、ちさとの手を握ったまひろ。

そう考えたら、冬村かえでと手を握ってくれる人はやはり居なかったのだなと思う。
手を握るということは、独りでは出来ないことの象徴にもなっている。

お誕生日を祝おう

全てが終わって改めての誕生日。ちゃんとしたコースではないけど、約束の焼肉。殺し屋って大きな仕事終わったら焼肉って流れが流行ってんのかな。神村兄弟と赤木さんもそうだったけど。広川も焼肉奢ってやったとか、全部終わったら焼肉行こうぜって言ってた。
仕事も終わったから酒も呑めるし(お祝いはノーカン!)、入鹿はダル絡みしてくるし、田坂さんは世話焼きモード全開だし、相変わらずまひろは食べ方が下手だしで、ようやく日常が戻ってくる。

まひろが『ひとり』になった時だけ、あのハンカチを取り出した時だけ、最初からそこに居たような少年は、かえでとよく似ているまひろにだけ見えた幻覚かもしれない。だけど、特になにも言わず、なにもせずに去っていく。
それはきっと、まひろが『独り』ではないから。
あの少年にとって、かえではハンカチを差し出すべき人だったんだろうな。

そしてしっかり祝えなかった誕生日を、改めてお祝いするために用意されたショートケーキ。取りに行くときにフローリングを走る犬の足音使ってるのも1作目を思い出させてくれていい。本当、今作は単体でも見れるけど1、2を観た人へのファンサもすごい。
わざわざ買ってきたケーキは、2人分だけしかなくて、また2人だけで誕生日を祝う。

ここで思わずまひろが「生きててよかったよ」と泣き出す。
つられてちさとも「うん、生きててよかった」と泣き出す。

ついでに観ているこっちも「(2人が)生きててよかった」と泣き出すんだけどね。

これまでもそれなりに殺し屋の仕事はしているのだから、死ぬかも、みたいな瞬間はたくさんあっただろうし、実際死にかけてることもあった。それでも、今回心底「生きててよかった」と思うのは、きっと自分が死んでしまうからではなくて、死んでしまったらもう2人で過ごすことができないからなんだと思う。2人ではなくなるということは、死よりもつらい。

どちらかが死んでしまったら、残された方はもう立ち直れないところまでお互いの存在が大きくなっていたことを、冬村かえでとの死闘で思い知った。

だけれど2人には殺し屋を辞める、みたいな選択肢はきっと存在しない。

ちさととまひろは殺し屋でしかやっていけないし、殺し屋をやっている以上、2人はずっと一緒であり、最高で最強だからだ。

これが「劇場版ベイビーわるきゅーれ」

1作目と2作目が世界観を形成した作品で、今作は真っ当な『劇場版ベイビーわるきゅーれ』だったと思う。

2作目まではまだ舞台もちさまひが暮らしている東京でのことだったし、合間に日常も挟まってゆるいところもあった。
今作は宮崎を舞台にしていて、しかもしっかり殺し屋の仕事もしていて、最強の敵にぶつかり、なんとか勝利してまた日常に戻ってくる。

この構図はテレビアニメなどが映画になった時によくある流れだと思っていて、僕自身もこの『劇場版』要素が大好きだ。本編では見たことない強敵が現れて、お馴染みのキャラも居るし、映画オリジナルのキャラも登場し、大きな事件を乗り越える。冬村かえでが現れ、田坂さんや宮内さんが居て(声だけだけど須佐野さんも)、入鹿みなみに七瀬りくが登場する。広川や松浦、ファームなんかも出てくる。
ドラゴンボール、ONE PIECE、ドラえもん……大体の映画はそんな感じなので『映画ベイビーわるきゅーれ』と言ってもいい。とにかくそういう構図だった。

ベイビーわるきゅーれナイスデイズは、間違いなくシリーズの最高到達点。まだシリーズはドラマとして続いているけれど、願わくば4作目、5作目とジョン・ウィックのように続いてほしいし、気持ち的には「殺し屋はつらいよ」と言わんばかりに50作続いてくれてもいい。
シリーズものは長く続くと面白みがなくなっていく傾向にあるけれど、このベイビーわるきゅーれに関してはいつまでもちさまひを見ていたいし、この2人と阪元裕吾監督ならずっと面白く出来そうだ。

遅れてハマった身だけれど、この作品を劇場で観れて本当に良かった。

生きててよかった。

語りたいことを語っていたら、あまりまとまりのない文章になったけど、それほど「ベイビーわるきゅーれナイスデイズ」は語るポイントが多くて素晴らしかった。

キャラクターについて語りまくっていたけど、これを作り上げたスタッフも本当にすごい。キャスト陣も、それこそ化け物級になっていると思う。
ドキュメンタリー映画も鑑賞済みなので、そこ含めたらまだ語れるのだけど、流石に別にした方がよさそうなのでまたの機会に。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
また何かの感想文でお会いしましょう(多分次は過去シリーズの感想文だけど)

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