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何がきっかけかは分からないけど彼の作品は好きだ

 初めて村上春樹の作品を読んだのは高校の現代文の時間だった。どんな作品だったかはよく覚えていないけど,なんだか実体の掴めない文章を書く人だなと思ったのは覚えている。父がよく村上春樹の作品を読んでいたので,その名は知っていたが,作品との出会いはこれは最初だった。
 それから,よくわからないけれど興味を持って本屋で1冊の本を手に取ってみた。冒頭の文章から語彙力を見せつけられているかのような文章が続いた。表現力がすごいことはよくわかったが,やはり実体は掴めなかった。
 大学生になった時,図書館で再び村上春樹を手に取ってみた。タイトルが気になったのだ。世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド。最後まで読んだ記憶はない。
 社会人となって2年目だっただろうか,初めて長編をしっかりと読んだ。なぜか我が家に「ノルウェイの森」の文庫版上巻だけあったのだ。あれだけ実体が掴めない文章だと思っていたのに,どんどん体に吸収されていく感覚があった。知らない音楽,知らないお酒,知らない言葉がたくさん並んでいるのに。本を読むのが遅かった私が上巻を1週間かからずに読み終わり,すぐに下巻を買いに行ったのを覚えている。
 そして,再挑戦したのだ。世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド。昔挫折したの理由がわからないくらいすぐに読み切ってしまった。私の生活の変化が,村上作品に対する何かを変えたようだった。気がつけば虜のようになっている。相変わらず実体が掴めない感覚があるが,それは当初の訳のわからない感覚ではない。むしろ,気持ちよくもある。

 しばらく小説自体を読まない期間が続いた。もちろん村上春樹の作品も読むことはない。再び読み始めるきっかけは奇妙なものだった。街中で「ダンス・ダンス・ダンス」の表紙デザインのTシャツを着ている人を見かけたのだ。それから,どうしても「ダンス・ダンス・ダンス」を読まなくてはいけないような気がした。
 「風の歌を聴け」,「1973年のピンボール」,「羊をめぐる冒険」,「ダンス・ダンス・ダンス」,「騎士団長殺し」。立て続けに作品を読み続けた。不思議と疲れずにずっと読み続けられるものだ。

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