mRNAワクチンによるADE誘導

AKIRAです。
本日は考察回です。


本当は解説回のつもりだった

本記事は、実はこちらの記事↓

この記事の中のこの部分。

この直後の文章では、「LNP-mRNAワクチンシステムの肝が脾臓やリンパ節へのmRNA分布にあるのに対して、針無し注射ではAPC(樹状細胞)内(つまり脾臓、リンパ節組織そのものへのタンパク発現は見られない)でmRNA由来の遺伝子発現が見られたことを根拠にこの課題を解決した」という趣旨の記述があります。
ただ、そのAPCも結局細胞であることには変わりがないので、APCを宿主細胞とするスパイク工場が再び展開されるストーリーは変わりません

通常、抗原提示には抗原タンパクを細胞内で分解するプロセスがありますが、APC内で作られたスパイクが全長の情報を持っていることはすでに明らかになっているので、下手をするとスパイク全長が分解プロセスを踏むことなく抗原提示されていることも考えないといけません。

https://note.com/akira515/n/n3cf1510c07b1「裸のmRNA」より一部抜粋

これについての解説をしようと考えていたのですが、内容を考えているうちに考察できたことがありますので、いっそのことひとまとめにしてしまおうと考えて今に至ります。

食作用による抗原の細分化

皆さんも、学校の理科の授業で習ったことがあるかもしれませんが、通常白血球と呼ばれる細胞は外敵であるウイルスや細菌を「食べる」ことにより、彼らの体内に病原体を取り込んで分解します。この現象を食作用といって、生命科学では、この作用を引き起こすための遺伝子発現の流れが解明されています。

難しいことを言いましたが、要は白血球は病原体を「食べて消化する」細胞であるというわけです。このことは、今回の記事において非常に重要な意味を持ちますので、本記事の最後まで覚えておいてください。

GFP(緑色蛍光タンパク)

https://www.cell.com/molecular-therapy-family/molecular-therapy/fulltext/S1525-0016(24)00163-1?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS1525001624001631%3Fshowall%3Dtrue

さて。こちらのURLは、私の「裸のmRNA」の記事において取り扱った論文のジャーナルへのリンクになります。
この論文内のFig5で示されている、APC(樹状細胞)という抗原提示細胞の一部がリンパ節組織でmRNA由来のタンパクを発現している写真。これを根拠に筆者は「リンパ節の組織にmRNAとLNPが分配されないが、抗原提示が正常に行われる」と主張しているのですが、これだけでは何のことかわかりにくいと思いますので少し解説します。

実際のmRNAワクチンはスパイクタンパクをコードしているのですが、そのスパイクを可視化することは難しいので、本報告ではスパイクの代わりにGFPという蛍光タンパク質に変更してやることで、導入した動物の組織でmRNAからつくられたタンパクを蛍光で可視化できるようにしています。

では、そのGFPについて説明します。
こちら、wikipediaのページですが、ここにあるようにGFPは暗所にて発色するための励起エネルギーを受け取ることで緑色の光を発する特殊なタンパクです。
生命科学の研究ではバイオセンサーとしてよくつかわれる有名なタンパク質で、この論文のように「投与したものがしっかりと入っているよ」という証明に使われます。

ただ、GFPが蛍光を示すためには「分子構造」が大事です。
つまり、分解されたり変性してしまってGFPの形が変わってしまうと途端に蛍光を出す能力を失ってしまうのです。

よって、GFPを使う実験では、できるだけGFPを変性、もしくは分解しないような方法を用いることが一般的です。(具体的には、プロテアーゼやタンパク変性剤のようなものを使わない)

APCが貪食したGFPは蛍光を発しないのでは?

では、次の図をご覧ください。

図 GFPを取り込んだAPC

論文内Fig5において、筆者は免疫細胞(APC)がGFPを発現していることから、mRNA由来の抗原をリンパ節で抗原提示できることについて述べていますが、私はそうは思いません。

通常、抗原提示細胞は抗原を捕食し、細胞内で抗原を消化して細かい分子になるまでバラバラにしてから抗原提示を行うため、正常に抗原提示が行われている場合、図の上側のようにGFPは分解されることで蛍光シグナルを失うはずなのです。

しかし実際の蛍光写真ではGFP(緑)とAPCマーカー(赤)が重なって黄色に発色しています。つまり、GFPがAPC内に無傷で残っているということです。
このような場合、何が起こっているかというと、図の下側のようにそもそも裸のmodRNAがそのままAPC内に導入され、自己抗原として誤認されている可能性が考えられます。自己の細胞内で合成するため、分解シグナルが増幅されず、GFPが無傷で残るのです。

以上のことから、本論文におけるFig5で示されたAPCはこの後、正常に抗原提示をしない可能性が考えられます

ADEへの懸念

GFPを発現しているAPCがリンパ組織に戻ってくると、食作用を行っていないのでそもそも抗原提示自体がうまくいかない場合もありますが、もし、抗原提示が行われた場合、ADEを誘発する危険因子となる可能性があります。

ADEの正式名称は、「抗体依存性感染増強」です。
誘導された抗体による本来の機能、中和活性に代わり、逆に感染を増強させる抗体が分泌されてしまう現象をいいます。

APCが代謝した抗原であれば、エピトープ(抗原提示部位)が制限されているのでむやみな情報の提示を避けられますが、上記で述べた通り、GFP発現APCはGFPをそのまま抗原提示する可能性があります
こうなると余計なエピトープ情報までT細胞に保存され、感染増強につながる非特異抗体の誘導を誘発してしまいます。

つまり、裸のmRNAはスパイク全長を抗原提示するAPCによる感染増強を誘発する可能性がこの論文で示唆されたことになります。

終わりに

以上です。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございます。

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