海を見たよ
2011年3月11日から10年が経ちました。
あの日、ぼくは東京の自宅でそれまで経験したことのないほどの大きな揺れに恐怖を感じ、ついに関東大震災が来たのかと思いました。
実際は、遠く離れた東北地方が中心の災害でした。
幸い、ぼくやぼくの家族にケガなどの被害はなく、東北に縁のある親戚もいなかったので、あの震災は自分とあまり関係がないことだと思いました。
でも、そのときぼくが通っていた学校の校長先生は、みんなの前で、強く、こう仰ったのです。
「いま東北の海を、被災地を、ぜひ見に行って下さい。」
どういうことなんだろう…
と思いました。
その後ぼくは高校生活を経て大学に入り、それなりに勉強などしつつ、色々な仲間と楽しい日々を過ごしていました。
そして大学も卒業が近くなったころ、自分の研究室の学会発表の後に、東北の沿岸部の被災地の復興のようすを見て回るツアーがあると知り、ぼくはあの校長先生の言葉をふと思い出して、それに参加することにしました。
被災地の視察ツアーは、まず岩手県の宮古市からバスで南下し、大槌、釜石、大船渡、陸前高田、それから宮城県の気仙沼までを見て回るというものでした。
それぞれの場所では海を前にし、用意されていたパネルやパンフレットをもとに、現地の自治体の職員や語り部の方から説明を受けました。
ぼくは、出来たばかりだという目の前のコンクリートの巨大な塊に圧倒されるとともに、地域の人々やこの国にとって、震災復興はとても大事なことなんだと肌で感じました。
それからぼくは社会人になり、これまでと変わらず普段はあの震災と関係のない日々を送っています。
ただ、ふとしたときに、あの校長先生の言葉を思い出すのです。
そして、週末などに、何度か被災地を訪れてきました。
石巻、東松島、七ヶ浜、荒浜、相馬、南相馬、浪江、大熊、富岡、楢葉、久ノ浜…
現地の人にお話しを伺ったり、本や新聞で調べたり、テレビ番組を見たりして、色々考えているけれど、まだ自分の中で、あの日のこと、あの言葉について、整理できていません。
もうしばらくは、海を見に行くことになりそうです。