子どもを産んではいけません
子どもを産むのはよくないことだと思います。
なぜなら、不幸な人間を生み出してしまうからです。
人間はいつか必ず死んでしまいます。
そして、人間はつねにその死や苦しみから離れようとして生きています。
より安全に、よりストレスなく、より楽しく、より幸せに生きようとします。
人間の生きる目的は、自らがより幸福になることだと多くの人は考えます。
逆にいえば、人生の目的は、自分の死や苦しみから完全に離れることだといえます。
でも、その目的は、未だかつて達成されたことはありません。
そういった、どだいクリアすることが不可能なゲームのプレイヤーを作ってしまうのが、子どもを産むということなのです。
幸福な人間もいるではないかと考えるかもしれません。
確かに、大金持ち、絶大な権力を手にした者、学問を極めた賢人、みなの尊敬を集める英雄、などといった社会的成功者や、そうでなくとも誰か愛してくれる人が身近にいる人などは、一般に幸福な人間だと言われます。
ところが、そういった人たちでさえも、自らの死からは逃れることはできません。
彼らのその幸福は、自らの死によって、すべて台無しにされてしまうのです。
生まれたからといって、人生は何も苦痛ばかりじゃない。
楽しいことや嬉しいこともいっぱいある。
だからプラスでマイナスを相殺できるじゃないか、と考えるかもしれません。
なるほど、ほとんどの人の人生には楽しいことや嬉しいことがいくつかあるでしょう。
しかし、それらは、生老病死の苦しみを上回るほどのものでしょうか。
ぼくには、牢獄に閉じ込められている人間が、もう牢獄から出られないと知り、哀れにも目の前の些細な楽しみに満足しようとしているにすぎないように思います。
必ず死ぬ運命にある人間はみな不幸なのです。
ゆえに、不幸である人間を生み出すことは、他人に危害を加えてその人を不幸にするのと同じようなこと、いやむしろ、そんなこととは比べ物にならないくらい大変な悪事なのです。
生まれなければ、少なくとも苦しんだり、死んだり、不幸になったりすることはありません。
だから、子どもを産んではいけません。
これ以上死すべき不幸な人を増やしてはいけません。
いま子どもを作ろうかと考えている人は、どうかここで思い止まってください。
既に子どもを産んでしまった人は、ぜひとも反省してください。
と同時に、産んでしまったその子どもをおもいっきり愛してください。
それから子どもを産まなかった人や産めなかった人で、もしいま不安を感じているのなら、どうか安心してください。
そのままでいいのです。
あなたは正しい道を歩んでいます。
もうぼくたちの世代で終わりにしましょう。
子どもを産んではいけません。