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AI規制を進めるEUは、OpenAIにとっても手強い相手

〜OpenAIのサム・アルトマンCEOのヨーロッパ・ツアーと、ブルトン欧州委員の訪米で見えてきたもの〜

2023年5月から6月にかけ、「ChatGPT」の開発元であるOpenAIのサム・アルトマンCEOと、ヨーロッパ各国のリーダーたちが会談した。その結果、AI革命を信じるOpenAIと、民主主義と人権を重んじるEU(欧州連合)の立場の違いが浮かび上がった。

AIによる革新的な生産性向上に楽観的なシリコンバレーの起業家と、ナチスの記憶を共有し民主主義と人権を重視するデジタル法規制を進めるEUの意見の違いは大きい。OpenAIとしても、今のところはEUの意向に逆らわない方針のようだ。

OpenAIのサム・アルトマン(Sam Altman)CEOはEU各国を回った。その中で、ロンドン大学のパネルで「規制がきつすぎるならEUを撤退する」とほのめかした発言は大きく報道された(のち発言を撤回)。

結果的には、以下に述べるように、アルトマンCEOの「うっかり」発言によりEUのAI規制に対するOpenAIの主張の対立点が明確になったといえる。

TIMEは「OpenAI、ヨーロッパから離脱か」の見出しで大きく報じる

5/24にユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで行われたパネルディスカッションの席上、OpenAIのサム・アルトマンCEOは「AI法について話し合うためにEUの規制当局と会った」「現在の法の表現方法について"多くの"批判を持っている」「(EUのAI規制法に対して)対応できる場合は対応し、対応できない場合は運用を停止する...努力はする。しかし、可能なことには技術的な限界がある」「(EUのAI規制法案に)本質的な欠陥はない」としながらも「ここの微妙なディテールが本当に重要だ」と述べた。

この発言を、TIME誌は「OpenAI、CEOが新AI規制を懸念しヨーロッパから離脱か」との見出しで報じた。
OpenAI Could Quit Europe Over New AI Rules, CEO Sam Altman Warns

FTも、「OpenAI、規制の進展で欧州との分裂を警告」の見出しで報じた。
OpenAI warns over split with Europe as regulation advances
https://www.ft.com/content/5814b408-8111-49a9-8885-8a8434022352

TIMEやFTの報道の余波は大きかったようだ。米国の有力テック系メディアThe Vergeはその後の動向を記事にしている。

"1日後、アルトマンは最初のコメントを和らげようとし、OpenAIは欧州のAI規制に関連する生産的な会話を行い「もちろん、離脱の予定はない 」と述べた。
OpenAI says it could ‘cease operating’ in the EU if it can’t comply with future regulation

EUのAI規制法草案のある条項では、基礎モデルの作成者に対して、システムの設計に関する詳細("必要な計算能力、トレーニング時間、モデルのサイズとパワーに関連するその他の関連情報 "など)を開示し、"トレーニングに使用した著作権付きデータの概要 "を提供することを求めている。これは詳細を開示しないOpenAIの姿勢とは合わない。また著作権付きデータの開示は、訴訟リスクを抱え込むことになる。

TechCrunchでヨーロッパIT規制を継続的に報じているNatasha Lomas記者は、OpenAIのサム・アルトマンCEOのヨーロッパ・ツアーについてと始まる、やや皮肉交じりの長文記事を書いている。ざっくり言うと「EUの欧州委員らは狡猾な相手だ。アメリカ野郎には歯が立たないだろう」という論調の記事だ。サム・アルトマンCEOは、スペイン、ポーランド、フランス、イギリスの政府首脳と、欧州の首都を「颯爽と回り、肉弾戦のような写真撮影を繰り返してきた」とLomas記者は書く。

特に、この記事中で引用しているペドロ・サンチェス スペイン首相のツイートは興味深い。「私は、@OpenAIの共同設立者であるSam Altman @samaと会い、人工知能が私たちの社会を近代化する大きなチャンスであることを共有しました。しかし、その発展には、人権と民主主義の価値を尊重することが不可欠です」と記している。

「人権と民主主義の尊重」。これはEUのAI規制法案の骨格だ。AIを政府機関や民間企業などが使う場合、人権侵害(プライバシー侵害や、個人に不利な誤認識など)や民主主義への脅威(社会を分断するフェイクニュース大量生産など)に使われてはならない。これがEUが求めていることだ。

記事中で紹介している欧州委員会のThierry Breton委員は次のようにツイートした。
「明確な枠組みを作ることで、欧州が生成的な#AIの展開を妨げていると主張するような脅迫は意味がありません。
その逆です!
私が提案した「AI Pact」によって、私たちは、EUのAI法 🇪🇺 への準備において、企業を支援することを目指します」

AI規制法案の意味は、AIの発展にあると主張している。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領のツイート。「フランスで才能と技術を開発すること、フランス、ヨーロッパ、そして世界レベルでの規制のために行動すること、これらが人工知能の観点で私たちが優先することです。ChatGPTの生みの親であるSam Altman氏と議論しました」

「議論の大半は規制をめぐるものだった。この技術で保護することと、繁栄させることのバランスをどうとるかについて話しました」」とアルトマン側は言っているが、マクロン大統領のツイートを見ると産業振興の側面にも関心が強いように見える。

こうした意見の応酬を受けて、OpenAIのサム・アルトマンCEOは「AIをどのように規制するのがベストなのか、ヨーロッパでは非常に生産的な1週間の会話となりました!私たちはここで事業を継続できることに興奮していますし、もちろん離脱する予定もありません」とツイートした。

TechCrunchの別の記事では、OpenAIのサム・アルトマンCEO側の意見がより多く紹介されている。アルトマンいわく、「議論はネガティブな要素に集中しすぎている 」「最近、人々がこれらのツールから得ているすべての価値を考えると、バランスが崩れているように思える」。いろいろ言いたいこともあるようだ。

その後、6月下旬に欧州委員会のThierry Breton委員らは米国サンフランシスコ市を訪問し、OpenAIのサム・アルトマンCEOと会談した。ツイートを見ると、EUのAI法が要求するAI生成コンテンツへの「電子透かし」についても話し合った模様だ。下記はThierry Breton委員のツイート。

一方、OpenAIのサム・アルトマンCEOも、「ありがとう。AI規制に関する生産的な議論に感謝する。我々は、AI法の下、欧州で我々の技術を提供することを楽しみにしている!」とツイート。これを見ると、Breton委員はシリコンバレーで最もイケているCEOにとっても手強い相手であるようだ。

なおThierry Breton委員らは、この訪米でTwitter運営会社のイーロン・マスク氏とリンダ・ヤッカリーノCEO、Meta CEOのザッカーバーグ、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏らと会談している。重要なAI関連企業と、合わせてEUが施行する新規制DSA(デジタルサービス法)とDMA(デジタル市場法)の適用対象となる巨大SNS運営企業を効率よく回った格好だ。

EUのAI規制法案は、考えられるAIのリスク、特に民主主義と人権、それに著作権侵害のリスクも含めてよく考えたものとなっている。その分、イケイケのアメリカ流ベンチャーにとっては辛い部分もあるだろう。OpenAIとEUの論戦では、AI利用の社会的合意に関して、注目すべき議論を見ることができそうだ。

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