立山縦走~初めての3000m級登山~
室堂平散策🚶♂️
秋になるとついついTVやYouTubeで山の番組を見る。
憧れの槍ヶ岳~穂高の縦走。大キレット。ワクワクする。もう自分の体力ではチャレンジは不可能なのはわかってるのに…。
今から30年以上も前、私は生まれて初めて、3000m級の山に登った。
しかも無謀にも単独登山。
富山と長野に跨る、立山に登った。
一般的に立山と一言でいうが、
本当は雄山と大汝山と富士ノ折立の3つの峰を合わせて立山と読んでいる。立山と言う山は無いらしい。
当時、私は登山好きの友人から、立山連邦やその周辺のダイナミックな自然の素晴らしさを聞き、1度は行ってみたいと思った。
立山、劔岳や黒部ダムから欅平までの『下の廊下』等、スリル満点で絶景は訪れた者しか味わえないらしい。
初めは立山黒部アルペンルートで、その壮大さを満喫する事だけが目的だった。
立山駅から美女平をケーブルカー。美女平からは高原バスに揺られ、立山登山の拠点である室堂平へ到着。
その車窓から見るだけで、景色の素晴らしさにワクワクする。
私は、今日の宿を室堂山荘に取っていた。室堂平周辺を散策しながら
のんびり自然を満喫したかったからだ。
バスを降りた私は人ごみを掻き分けて遊歩道を歩き始めた。
目の前に広がる立山本峰の雄大なパノラマに圧倒されながら、歩く事15分程でみくりが池に到着した。
みくりが池は立山火山の火口湖。
湖面に映る雄大な立山も美しい。
すぐそばには、日本一の高所にある「みくりが池温泉」もある。
私もその温泉に浸かったが、さほど広くは無い印象だが、なんと言っても日本の最高所の温泉。それだけで入る値打ちはあると感じた。
その後、時間をかけて弥陀ヶ原に足を伸ばし、室堂山荘に着いた頃には夕方になっていた。
生まれて初めて泊まる山荘。そこはイメージしてたよりもずっと綺麗で心地よかった。
なんと言っても山荘の部屋から見た立山の星空の美しさは今でも鮮明に覚えている。大阪人の私にはそう簡単にはお目にかかれない輝きだった。室堂自体が高所という事もあり、まさに手を伸ばせば届きそうだった。
私はその星空を肴にビールを飲みながら、明日の予定を立てた。
無謀な立山縦走⛰🚶♂️
翌日。朝食を食べ終えると、そそくさと今日の目的である立山を登り始めた。
この登山は当初予定には入ってなかった。動きやすい格好でもあるし、せっかくだからと登る事にした。
初めに、立山の最高峰「雄山」へ
トライ。
登山口から途中の一の越までは
急ではあったが割と簡単に登れた。
途中、7月だと言うのに道に沿って現れる残雪に、男1人で燥ぎながら登ったから、楽に感じたのかもしれない。
一の越で一服をし、持参したスポーツドリンクを一口飲みながら、目の前にそびえる雄山を見上げた。
(これを登るんか)
少し腰が引けたが、
(ここまで来たんやから)
と1歩ずつゆっくりと登り始めた。
初めは、さほど疲れは出なかったが、徐々にゴロゴロとがれ場が出現して、息も上がってきた。
三の越辺りで小休止。
雄山山頂へとアタックした。
雄山の社務所まで登ったが、折角と思い山頂にある祠まで登ることにした。
人1人が通れる程の、
手すりも何も無い天空への道を登ると小さな祠が祀ってある。雄山神社の峰本社だ。
私は手を合わし、人が多かった事もあり、さっさと降りる事にした。
急な降り道に私は足がすくんだ。
その時私は、この上ない後悔をした。実は私は極度の高所恐怖症だ。
(どうやって降りよう。後ろにも人が待ってるし)
私は焦った。
(これしか方法は無い)
私は地面に両手をつきバックで
恐る恐る降りる事にした。
何とか、社務所のある鳥居まで降りれた。
私は周りの目が気になり、群衆に背を向けるように立ち上がると、山頂から見下ろせる絶景を楽しんだ。
行けなかった大汝山
(さぁ行くか)
すぐに、次の目的地の大汝山への足を向けた。
しばらくすると、周辺が暗くなり雨が降ってきた。
(やばい、雨の用意は何もしていない)
山の天気は変わりやすいとはよく言うが、室堂平では晴天だったのにと、ショックを受けた。
まだ小雨のうちに、私は先を急いでだ。
すぐに、大汝休憩所に着き、私は雨を凌ぎながら今後の予定を練り直した。
数分後、小雨になり今のうちにと、結局予定通り、前に進む事にした。
ところがまたしても雲行きが怪しくなってきた。大汝山はすぐそこなのに…。
大汝山登山口に到着し、先に続く登山道を見上げるも、すぐそこまでガスがかかり視界が無かった。
雄山山頂の事もあり、未知の世界への無謀な行動は避けようと、大汝山へのアタックは断念した。
富士ノ折立
大汝山を断念した私は、ガスが開けるのをじっと待った。
ようやく4~5m先まで視界が開けた。
(早くここを脱しないと)
私は焦る気持ちで、先を急いだ。
しばらく進むと、岩に赤ペンキの矢印が左右に書かれていた。
(どっちに進めばええんや?)
悩んだ挙句、比較的広い道を選んだ。
その道を進むにつれ、だんだん道幅が狭くなり、大きな岩のがれ場が現れた。
私は不安になりつつも、赤ペンキの○印がついているからと、そのまま進んだ。
変な胸騒ぎがし、辺りもまたガスで視界が悪くなった事もあり、足を止めた。
一瞬さぁっとガスが開け、岩の間からその先を覗いた。
その時私は血の気が引いた。
その先は断崖絶壁で、もう2~3歩足を進めていたら間違いなく滑落していた。
私はゆっくりゆっくり後ずさりした。
さっきの赤ペンキの矢印の分岐まで戻った。
私は半信半疑でもう1つの道を進んだ。
ガスは少しは掃けたが、依然として視界が悪く慎重かつ迅速に先を進んだ。
その時、目の前に稲妻が私が進む先の稜線上に、突き刺さるように光った。
私からはどれくらい離れているかは分からないが、体感的には数十メートル先のような気がした。
目の前にあのような光景を見たのは生まれて初めてで、しばらくその場を動けなかった。
さらに先を進むと、
ようやく辺りが開け、
美しい尾根へと出た。
左側には、山崎カールの絶景。
稜線の先には高い山々。
今までの恐怖が夢を見ていたかのように、一変広大な自然が広がった。
まさしく、天国のようだった。
私は安堵と清々しい気持ちで、気分上々稜線を歩いた。
その先はどこをどう歩いたかは、よく覚えていないが、見覚えのある室堂平に帰ってきた。
みくりが池温泉を横に見ながら、室堂ターミナル駅に着いた。
アルペンルートの帰路
まだ時間が昼過ぎだったので、軽めの昼食を取り、トロリーバスに乗った。
今回の無謀な弾丸登山で山の恐ろしさを体感した私は、トロリーバスに揺られながら、「山は舐めたらあかん」と心の中で1人反省会を開いた。
すぐに、大観峰駅に着きそのままロープウェイに乗り継いだ。
ロープウェイからの眼下に広がる黒部平も神秘的で、どこかに野生動物でもいるのではと、目を凝らし自然を楽しんだ。
そして、黒部湖駅に到着。
まもなく、
あまりにも有名な黒部ダムが姿を現した。
展望台から見るその壮大な黒部ダムに圧倒された。
本当は、黒部湖も堪能したかったが、時間的に余裕がなく諦めた。
関電電気バスに乗り込んだ。
詳しくは分からないが、
黒部ダムは近畿地方の電力不足を解除するために、関西電力が建設したらしい。
『黒部の太陽』と言う映画で見たが、その建設は壮絶なら物だったそうだ。
そんな事を考えている内に、バスは終点の扇沢駅に着いた。
私は扇沢駅からバスで信濃大町駅に向かった。
大町駅からタクシーで数分
予約してるホテルへ着いた。
チェックイン後すぐに、既に用意してくれている夕食を頂いた。
山の幸海の幸が交えた豪勢な夕食に舌鼓を打ちながら、美味を楽しんだ。
この壮絶な1日を振り返りながら、ビールを一気に飲み干すと、すぐに酔いが周り、ほろ酔い気分になった。
食後は温泉を頂き、その夜は
知らぬ間に眠ってしまった。
旅の終えて
翌日。帰りの電車が大阪に近づくにつれ、昨日一昨日の事が夢のように、喧騒に掻き乱され、現実に戻されて行った。
2024年
あれから、30年も時が過ぎ、
未だ百名山への憧れはあるが、
体力的にアタックは無理なのは
自覚している。
専ら私は、登山家YouTuberの番組で楽しませてもらっている。
あの日の立山登山は、
生涯私の、
2度とは出来ない体験談として、
子や孫に語り続けていくだろう。