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生まれて初めて公衆電話を使った日
駅のホームに向かいながら、ワイヤレスのイヤホンを耳に挿した時に、いつも聞こえるポロンッという接続音が鳴らなかったことに軽い違和感は覚えていた。
イヤホンケースをしまいつつ、音楽を再生するためにバックの中からスマホを取り出そうとしたけれど見つからない。
上着のポケット、ジーパンの後ろポケット、横ポケット、サブバックの中、最後にもう一度バッグの中をゴソゴソと高速で探したけれど、やはり無い。
「さっき降りた車の中に忘れてきたんだ。」
0.5秒くらい思考してから、たまたま数メートル先にあった公衆電話に足早に歩き出していた。
その日は両親と1泊2日の旅行に行った帰りに駅まで車で送ってもらっていた。
「忘れ物しないでね」
車から降りる時に母親から声をかけられたけど、雨が降っていて傘も持たなきゃいけなかったし、旅行用のサブバックもあって、意識がいろんなところに散っていたせいだ。
公衆電話のボックスに入り、後ろ手で扉を閉めながら財布を取り出す。
1円玉と100円玉しかなかったので100円玉1枚を取り出して、電話の上に書いてある説明書にざっと目を通した。
焦っていたのでなかなか頭に入ってこなくて、とりあえず100円玉を入れてみたけれど画面が変わらない。
080...と番号をプッシュしてみても、電話がかかる様子がない。
どうしたものかと思っていると、受話器の存在に気がついたので耳に当ててみた。
受話器をあげるとプッシュ音が鳴るようになって、電話をかけられそう...!
自分の番号にかけるか母親の番号にかけるか悩んだけれど母親の番号をプッシュ。
「何かあった時のために」ということで母親が電話番号の語呂合わせを考えて、高校生くらいの時から事あるごとに私に刷り込んでくれていたので、母親の電話番号は暗記していた。
祈る思いでコール音を聞いていると、3コール目で電話に出てくれた。
私のスマホも後部座席にあるというので、申し訳ないけれど駅まで戻ってきてもらうことに。
連絡が取れたこととスマホが見つかったことに一安心しつつ受話器を戻すと、お釣りが出てこなかった。
「100円はおつりが出ません」
大きく書いてあった。
まあ、今はそれくらいのことなら許せちゃう。
その後、無事に両親と合流。
初めて公衆電話を使ったことと、おつりが出なかったことを報告すると、50代の母は、そんなことも知らないなんて信じられないという顔をしながら話を聞いてくれた。
公衆電話を使っている人にとっては当たり前のことしか私の話に書いていないだろう。
電車の時間が迫っていたので、すぐに別れて再びホームに向かった。
「何かあった時」というのは本当にくるものなんだなあと感慨深くなりながら、イヤホンを耳に挿してポロンッという音を聞いた。