もみじユッケ
今回ご紹介するのは、鹿肉を使ったユッケ「もみじユッケ」です。作る予定はまったく無かったのですが、肉の状態が良過ぎて火を通すのが惜しくなり、その場の思いつきで作って食べました。
昨日の夕飯は、「鹿のトマトバジル炒め」でした。この料理は以前もご紹介した通り、鹿肉のスライスを使うと美味しいのですが、在庫状況的にスライス肉は残り少なく、逆に背ロースやランプの古い肉が多く冷凍庫に残っていたため、去年10月に真空保存した古い背ロースを解凍することにしました。
10月の鹿ですから、肉質が良いことはほぼ間違いなかったのですが、いかんせん古いので、知り合いやご近所さんに差し上げるのもためらわれ、おそらく部分的に冷凍焼けもあるだろうというので、まあ、炒めてしまえばなんとかなるさ〜、くらいの気持ちで解凍を始めました。加えて、この夏は(春からずっとなのですが)、知り合いから毎週お野菜をいただいており、冷蔵庫には消費を待つ大量のバジルとトマトがありました。これらを何とか使い切ること、それも美味しく使い切ることが、昨晩の私のタスクでした。
古い背ロースの解凍(冷蔵庫に一晩置いて解凍)が終わり、さあ肉を切り分けましょうという段になって、びっくり仰天。真空パックから出てきた肉の質の素晴らしいことに驚きました。色合い、キメの細かさ、柔らかさ、どれも最高レベルな上に、冷凍焼けも全然ない!
さすがは10月の鹿!というか、さすが2歳のオスの背ロース!というか、真空パックすごすぎ?!と感心してしまいました。さらに包丁でスライスしていくと、肉の滑らかさやら、断面の美しさやらに心を奪われてしまい、そこから強烈な葛藤が押し寄せてきました。
こんな素晴らしい背ロース・・・炒めたらもったいない。
でもどうしよう、もう切ってしまったし、ここからタタキにはできないし、でもやっぱりできるだけ加熱はしたくないな。どうしよう、困ったな、もったいないな、食べたいな、食べたいよなこのままで・・・そうやってしばらく悩んだ末に、う〜ん、そうですね、禁断の食べ方に行き着いてしまいましたよね。
ほんならもう、生で食べたろ。あたし、悪い子やし。
滋賀県のジビエ講習会でも「必ず加熱調理してください!」と念を押され、E型肝炎のリスクも十分承知の上で、良い子には真似してほしくないです、というか、絶対真似しないでね!とちゃんと釘を刺した上で、わたくしの自己の責任において、いただくことに致しました。
もみじユッケ。
奇しくも今日(8月13日)は亡き師匠と出会い、初めて鹿をこの手で解体した記念日です。あれから3年。師匠は逝ってしまいましたが、生前彼が絶賛オススメしてくれた食べ方がありました。
「どんぶりに刻んだキャベツ入れてな、その上に細かく切った鹿並べるやろ、ほんで生卵のせて、焼肉のタレかけて、ガッーっと混ぜて食うてみ。めちゃくちゃうまいから」
師匠は何トンという肉を、私は何百キロという肉を、皆さんにお配りし続けてきました。だけど師匠も私も、そのお肉を使ってお商売をしたことは一度もありませんでした。私たちはただ、自然から譲り受けたお肉を、我々もまた自然のささやかな一部として分け合い、分かち合ってきただけでした。だからいいんですよ。流通させるための肉と自分たちの分け前の肉は、一緒じゃなくていいんだと思うんですよ。だから私たちは、病気になるかもしれなくても、手にした自然の恵を一番うまいと思う食べ方で食べたらいいんです。
しっかりと言い訳も並べ連ねたところで、はい、作っていきましょう。師匠にありがとうの気持ちを込めて、絶賛オススメ(注:でも食べたらあかんよ!)もみじユッケです。
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